実用書

「食糧危機」をあおってはいけない / 川島博之

読んでいて楽しい。真に啓蒙的な本というのは、ただ単に役立つだけでなく、世界が広がっていく爽快感をともなうのです。本書では食糧不足というのが単なる俗説で、実際は潜在的な生産能力がかなりあるということをデータで示しています。とくに面白かったの…

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 / 橘玲

世にあふれる自己啓発本は読んでも「成功」できないから意味無いよ、あと「成功」しなくても他者から承認されれば「幸福」なので、そういった愛され空間を探そうぜ、という内容。けっこういい本だと思いますよ。やっぱ他者から一目置かれるっていうのは快楽…

就活生から見た「好きなことを仕事に」教への違和感――村上龍「新 13歳からのハローワーク」

人間には「好きなことやって野垂れ死にする派」と「あほか! 堅実に安定した生活を送るのが一番だろ派」がいると思う。 「安定した生活が第一派」にしてみたら、とりあえず平均年収1000万以上の大企業に就職することが勝ち組ということになろう。この「安定…

燃料電池が世界を変える / 広瀬隆

原子力の代替電源として何が適当かを考える上で参考になる一冊。反原発で知られるジャーナリストが書いた本なので、その点は割り引いて読まないといけませんが、著者独自の主張はあまりなく、方々の専門家の意見をまとめただけなので信憑性はそこそこありそ…

私はなぜ原子力を選択するか / バーナード・L・コーエン

放射線学者が「火力発電の大気汚染のリスクが原発のリスクを上回るので、原子力はマシ」と主張する本。実際にアメリカの火力発電は数万人単位の死者を出すほど深刻で、マックス・カーボンも同様の指摘をしています。 タイトルからして原発推進派なのがバレバ…

火力発電でも人は死ぬ――マックス・カーボン「原子力―それは加害者か被害者か? 」

福島第一原発の事故以降、「ほれ見たことか。原発は日本じゃ無理」という声が高まっています。しかし原子力が他の代替発電に比べて危険だということが証明されないかぎり、原発を廃止すべき理由にはなりません。 たとえば「「テラワット/時」当たりの平均死…

M9.0の地震に耐えた日本の原発は本当に最強か?――舘野淳「廃炉時代が始まった」

原子力学者が「どの原発が地震に耐えられないか」を検証した本。著者は、地震の強さはその規模(マグニチュード)ではなく、揺れの強さ(加速度・ガル)で計るべきと主張します。どんなに規模が大きい地震でも震源地から離れていれば、それだけ揺れは小さく…

原発事故…その時、あなたは! / 瀬尾健

原子核物理学者が原発事故のプロセス・被害をシミュレーションした本。ここで想定されている事故は「冷却が一切間に合わず、格納容器が溶融した燃料によって破壊され、放射性物質が周囲にばらまかれる」という、最悪のケースです。浜岡原発で同様の事故が起…

津波による原発事故は予想できていた――藤田祐幸「脱原発のエネルギー計画」

終末感漂うこの週末、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。 僕は被害のほとんどない東京にいるのですが、普段は冷静キャラの友人が妙にあわてていたりして、なんとなく「ああ、やべーな」という気持ちになっています。 さて、本題ですが、池田信夫氏が「津…

ロボットを思念で操作して自分を介護する時代へ――川人光男「脳の情報を読み解く」がすごい

次の20年を制する技術がここに書いてあります。それは、ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)、脳内の思念によって機械を動かす技術です。しょせん、精神とか心とかいうものは脳内の自然現象です。ならば、その過程を数学的に解析し、その情報によって…

デモクラシーの使用環境――イアン・シャピロ「民主主義理論の現在」がすごくない

1.良いデモクラシーの評価基準 シャピロは民主主義(デモクラシー)の良し悪しを評価する基準として「不当な支配をどれだけか減らせるか」という基準を提示します。ここでいう「不当な支配」とは、自分の意思に反した拘束を強いられる状態です。たとえば、…

共生の作法 / 井上達夫

これぞ正義論。絶対的な正義などないのだから正義論なんて論じるまでもない、という冷めた価値相対主義は、実のところ正義に対する根本的な批判ではない。それは善にたいしては有効な反論であるかもしれないが、正義にとっては致命的な反論にはなっていない…

2円で刑務所、5億で執行猶予 / 浜井浩一

刑法・刑事訴訟法について学ぶ人は読んで損はないです。刑事政策の専門家が、治安にまつわる神話をデータに基づいて検証した本。まず「少年犯罪は減っており、むしろ高齢者の犯罪が増えている」のが意外でした。万引きについては1980年代には50%が少年、10…

検察が危ない / 郷原信郎

検察の暴走を批判する検察OBの書いた本。とくに小沢一郎の政治団体・陸山会が土地購入の際、政治資金収支報告書に購入原資である4億円が記載されていなかった事件について詳細が載っています。このいわゆる「政治と金」の問題は、政治権力を利用した悪質なマ…

父として考える / 東浩紀・宮台真司

最近の僕は自由主義が世論の支持を得ることに悲観的で、経済的に効率な社会なんてものは夢だと諦めかけています。そうすると、貧しいながらも楽しい我が家、ではないけど、厚みのあるコミュニティができれば、とりあえず幸福は確保できるかな、ということに…

国際政治 / 藤原帰一

教科書にしては例外的に読みやすく、国際政治の面白さが伝わってくるいい本だと思います。とくにナショナリズムに関する記述は引き込まれました。いきなりP・W・シンガー「戦争請負会社」みたいな本は読まずに、まずはこういった基本的なところからおさえる…

CIA秘録 / ティム・ワイナー

噂、伝聞一切なし、すべて一次資料のみからCIAの実態を明らかにした傑作。1947年に発足したCIAの使命は「何よりもまず、第二のパールハーバーのような奇襲攻撃を事前に大統領に報告すること」だった。*1 つまり政策立案のために外国の情報を集め、理解する諜…

安全保障の民営化がもたらす外交の変容―――P・W・シンガー「戦争請負会社」

1996年、A国中央政府は絶望的な状況にあった。太平洋に浮かぶ群島国家であったA国は、その経済を鉱山資源の輸出に依存しきっていた。その鉱山が反政府武力組織に占領されたのだ。しかし、国防軍にその奪回のための軍事力はなかった。旧宗主国からの援助も断…

国際政治史 / 岡義武

僕が国際政治史を読むたびにはげしく違和感を覚えてしまうことは、議論の中で国家が擬人化されてしまうことである。例えば、アメリカは共産主義に対してはげしい憎悪を抱いており、ソ連としても資本主義諸国に対する反感を常に持っていたのだった、とか言わ…

世界政治 / ジェームズ・メイヨール

世界政治は「主権が大事だよ派」と「人権が大事だよ派」のせめぎ合いである。「主権が大事だよ派」は「国家は不可侵だよ、多元的な共存が妥当だよ」と主張する。「人権が大事だよ派」は「個人の身体は不可侵だよ、もしその国の政府がこの権利(自由、民主的…

実践 行動経済学 / リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン

リバタリアン・パターナリズムという思想がある。リバタリアニズムは「市民はバカだが政府はもっとバカなので、市民の判断に任せるしかない」というものであり、パターナリズムは「政府はバカだが市民はもっとバカなので、政府が介入するしかい」というもの…

代議士の誕生 / ジェラルド・カーティス

代議士というのは一体どんな財の売り手なんだろうか。僕たちは財を買ったり売ったりしている経済的な存在だ。僕は『代議士の誕生』という財の買い手であり、日経BPは売り手だ。プロパイダは「ウェブ」という財の売り手であり、あなたは買い手だ。僕たちはマ…

職業としての学問 / マックス・ウェーバー

ウェーバーにとっての学問は何であったか。効用面からは3つに分けられる。技術についての知識、考えるための方法、「明晰さ」への貢献がその3つだ。ウェーバーのいう「明晰さ」とは、ほぼ価値相対主義と同じだろう。価値判断をする(ある立場をとる)という…

職業としての政治 / マックス・ウェーバー

官僚制の成立過程を分析したドキュメンタリーとしてはなかなかだが政治家としての心得を説教する部分はどうにも陳腐で読めたものではない。「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていくような仕事で…

平岡公彦氏・finalvent氏・とつげき東北氏のニーチェ解釈――永井均「これがニーチェだ」がすごい

平岡公彦氏に紹介された永井均「これがニーチェだ」をようやく読みました。僕の感覚からすると非常にわかりやすかったです。紹介していただいてどうもありがとうございます。僕がどうしても理解できなかったのは「どうしてニーチェは健全だとか健康だとかに…

隷従への道 / ハイエク

そろそろこの名著を紹介しておこう。 世界を上下に分けて下に味方するのが左翼、世界をウチとソトに分けてウチに味方するのが右翼 - Zopeジャンキー日記 でリバタリアニズムが支持されているのは「なにが正しいかはわからない。だから権力や暴力でなにかを強…

自由からの逃走 / エーリッヒ・フロム

フロムによれば、近代人は自由になったが孤独になった。この孤独から逃れるために近代人は「個人的自己からのがれること、自分自身を失うこと、いいかえれば、自由の重荷からのがれること」*1 を望んだ。これが全体主義の起源であった。しかし、ここで問われ…

リバタリアニズムと同性婚に向けての試論―私事化の戦略― / 橋本祐子

アメリカ合衆国連邦最高裁判所は同性愛者の性行為を禁ずるソドミー法を、憲法修正第14条違反として無効とした。これを機に同性婚の是非についても論争がなされたが、リバタリアンであるポズナーの意見は、同性愛者の性行為は合法であるが、同性婚は認められ…

よその子 / トリイ・ヘイデン

知的障害者とか精神障害者を取り上げるノンフィクションって、お涙ちょうだいものが多くてげんなりなんだけど、これはあまりげんなりすることもなく読めたな。いや、むしろちょっと感涙してしまったくらいだ。たいていの本は、一般人が自分の正義感を充足す…

鳩山由紀夫の政治を科学する / 高橋洋一・竹内薫

菅政権続投というわけで、なにやら支持率も上がっているみたいです。しかしへろへろだった鳩山政権と一体何が違うのか見えてこないので、なんとなく様子見という人が多いんじゃないでしょうか。というわけで、今問うべきなのは鳩山政権とは何だったのかであ…