私はなぜ原子力を選択するか / バーナード・L・コーエン

放射線学者が「火力発電の大気汚染のリスクが原発のリスクを上回るので、原子力はマシ」と主張する本。実際にアメリカの火力発電は数万人単位の死者を出すほど深刻で、マックス・カーボンも同様の指摘をしています。
タイトルからし原発推進派なのがバレバレでうさんくさいと思われるかもしれませんが、原発事故のプロセスもかなり正確に想定していて、お花畑的な原発安全論ではありません。たとえば水素爆発のリスクについては、それは起こるものと想定して、さらにそれが致命的な「格納容器の破壊」にまで至らないと書いてあります。

研究者の間では、事故で発生する可能性がある水素がすべて一度に爆発するとしても、スリーマイル島事故の場合を含めて、その力はほとんどの型の格納容器を破壊するほど強力ではないであろう、ということで意見が一致しているようである。さらに、ほぼすべての状況で、水素は徐々に発生し、火花の発生源がいくつかあるため(たとえば電動機)、連続的に燃焼するか、格納容器を脅かすほど大きくないいくつかの爆発で消費されることになる。*1

実際に福島第一原発事故でも水素爆発は起きましたが、それは格納容器を破壊するものではありませんでした。チェルノブイリ級の最悪の事故を想定していたずらに不安を煽る本が多い中、本書のように冷静に原子力のリスク分析した本は貴重だと思います。

*1:本書91p