ミステリ

完全に奇書――舞城王太郎「JORGE JOESTAR」

ジョジョ2部の主人公ジョセフ・ジョースターの父であるものの、原作においてはほとんど言及されないジョージ・ジョースターの物語。舞城王太郎がノベライズしているわけなんですが、波紋でもスタンドでもなく、名探偵ジョージ・ジョースターとして活躍すると…

絶望ノート / 歌野晶午

一言で言うと、死神の出てこない「デスノート」。主人公はいじめられっ子で、いじめが辛い死にたいとか、マジでもうあいつ死んでいいよ死ね今すぐ死ねとか、まあ、そういったネガティブなことを日記に書きまくるのです。すると、死ねと名指しされた人が本当…

葉桜の季節に君を想うということ / 歌野晶午

タイトルからするとレトロな味わいのある文学を想像しますが、内容はざっくばらんで俗っぽいミステリです。まあ、叙述トリックものですね。筒井康隆「ロートレック荘事件」よりも構成は上手かもしれません。つまらなくはないですが、京極夏彦好きな僕からす…

ドグラ・マグラ / 夢野久作

奇書っていうから敬遠してたけど、レトロな文体のラノベって感じで読めるので、意外としっかりエンタテイメント。京極夏彦とか好きなら是非。冒頭で、いきなり主人公が自分の名前もわからない記憶障害であることがわかり、さらに自分が今精神病院に監禁され…

フェミニズム殺人事件 / 筒井康隆

筒井康隆のミステリ。「文学部唯野教授」の講義で使うはずだったフェミニズム関連のネタを膨らましてミステリに仕立てたそうです。ただ正直言って、これなら不完全でもいいから唯野教授の講義をしてほしかった。上流階級のサロン的雰囲気なんかはよかったん…

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 / スティーグ・ラーソン

ミステリというよりもノンフィクションのような印象を受ける。つまり、飛躍的な発想による一点突破ではなく、地道な下調べによって少しずつ外堀を埋めていくような作業なのだ。この緻密さはジャーナリストである著者ならではであろう。ストーリーのほうは40…

イリーガル・エイリアン / ロバート・J・ソウヤー

ソウヤーの最高傑作。 ファースト・コンタクトもの。エイリアンの滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見され、容疑者としてエイリアンが逮捕されてしまう。相手がエイリアン? 知るか! 裁判だ裁判!……というストーリー。さすがのコモン・ローもこれには苦…

ディスコ探偵水曜日〈下〉 / 舞城王太郎

完全に神話だこれ。舞城王太郎は神話を創ろうとしている。単なるタイムトラベルものかと思いきや、世界の成り立ちを解き明かし、時空の認識を一変させる壮大な話だった。いや、正直すげーわ。物語としてのまとまりなら「九十九十九」のほうが上だけど、本作…

ディスコ探偵水曜日〈上〉 / 舞城王太郎

なんだこれは。過剰だ。過剰すぎる。導入部の30ページは傑作SFを予感させる出だしなのに、そこから清涼院流水「コズミック」のような、バカミスが延々と続く。殺人事件に過剰な意味づけを与える名探偵が出るのはまだいいとして、なんでこんなにいっぱい出す…

暗闇の中で子供 / 舞城王太郎

読み終えた後に壁に叩きつけたくなる本ということで評判だったので、そうはいくかと読んでみたら想像以上に壁に叩きつけたくなって笑った。ミステリとしては一応前作の続きということでして、いろいろ伏線回収をするんですが途中からどうでもよくなったのか…

煙か土か食い物 / 舞城王太郎

連続主婦殴打生き埋め事件を解決するというストーリー。ふつうこういうサイコな事件には犯人特有のフレーバーがあって、なんらかの象徴だったり見立てになっていたりするわけだけど、この小説ではそういったミステリの旨みがほとんど蒸発してしまっている。…

名探偵の呪縛 / 東野圭吾

売れ線のエンタメだけ書いている作家かと思いきや、実はこういう作家としての心情を吐露しただけのような、わりとどうでもいい本も書いていたのですよ、東野圭吾という人は。まあ、それだけです(なげやり)。「名探偵の掟」の続編ときいて楽しみにいただけ…

名探偵の掟 / 東野圭吾

東野圭吾でこれがオススメとかどういうことだよ、と言われそうなんですが、僕にとっては誰が何と言おうとこれなのです。主人公である探偵役はこれがミステリ小説であることに自覚的なので、ミステリでよくある設定(密室、アリバイ、無駄に凝ったトリック)…

「ひぐらしのなく頃に」好きなら読んどくべき3作

こう見えてけっこうひぐらし好きなんですよ。ちゃんと原作の方でやりました。「皆殺し編」とかは泣きましたよ。こう、運命を乗り越えるとか、宿命に抗う、とか大好きなんです。まあミステリとして読んだら、ふざけんなってことになるでしょうが。あと文章は…

クビシメロマンチスト / 西尾維新

ミステリを読んでいるとまるでスーパーの棚に陳列しているカップ麺のように、密室殺人とか連続殺人とかが投げ売りされていて、もう正直げんなりなんだけど、この小説ではそのげんなり感をあらかじめ主人公が取りこんでいるところが新鮮だった。どこぞの名探…

クビキリサイクル / 西尾維新

バカミステリが好きなら清涼院流水を読めばいい。うじうじとした内省を味わいたいなら京極夏彦を読めばいい。言葉遊びと笑える文体を堪能したいなら舞城王太郎を読めばいい。しかし、そのすべてを手軽に楽しみたいなら、あなたは西尾維新を読むしかない。と…

ダ・ヴィンチ・コード / ダン・ブラウン

エナメルを塗った魂の比重 / 佐藤友哉

ロートレック荘事件 / 筒井康隆

筒井康隆のミステリでは一番ミステリらしい。奇をてらった感じがなく、なんというか、ふつうのミステリです。何を言ってもネタバレになってしまうので多くは語りませんが、どんでん返しを楽しみたい人はどうぞ。

模倣犯 / 宮部みゆき

ドキュメンタリーのように総合的な視点で殺人事件を描く長編。「理由」を2倍の長さに薄めたような作品です。「理由」のときも内容の冗長さに文句たらたらだったんですが本書はさらにひどい。スープの味付けが薄いとケチをつけたら、同じ濃さのスープをもう一…

寄生木 / 長坂秀佳

長坂秀佳の弟切草シリーズ第3作。著者自身が主人公で、自分が書いた小説「弟切草」の登場人物を名乗る男から、「その小説を書くのは止めてください。ストーリー通りに人が殺される!」と脅迫されるという話。うーん、この設定はちょっと興ざめです。メタフィ…

陰摩羅鬼の瑕 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第7作目。嫁いだ花嫁が次々と死んでいく洋館。いかにもって感じのシチュエーション。今回のテーマは「儒教」です。それもハイデガーの哲学と融合した儒教なので、面白かったです。しかしこれはもう教養小説ですね。あるいは文系ハードSFとも。…

塗仏の宴 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第6作目。大量虐殺があったとかなかったとか、そんな話。凶器にもなりうる犯罪的な厚さの文庫本が上下二冊あるという、冒涜的な重量に圧倒されます。面白いんですが、長すぎです。内容は……そうですね、あまりいつもと変わりません。しいていえ…

絡新婦の理 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第5作目。まあ恒例のごとく連続殺人事件がおきて、いろいろ民俗学ネタをからめつつ解決するよ! という話。今回は美人四姉妹というなにやら読者受けを狙った設定があり、さすがに前作の坊さんだらけの男臭い舞台が評判悪かった、ということな…

鉄鼠の檻 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第4作目。今回のテーマは「禅」です。この禅というのは京極堂の天敵ともいえる存在です。なぜなら、禅とは言葉では表現できないものだからです。言葉では表現できないものを体現するために、禅があるというか、禅を表現する最も簡潔な方法が禅…

狂骨の夢 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第3作目。前2作と比べてややパワーダウン。それでも凡百のミステリと比べたら断然に面白いです。今回のテーマは「宗教」です。よく無茶な動機にカルト宗教が使われますが、多くの作品で描かれている宗教は薄っぺらいバックボーンしかもたない…

魍魎の匣 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第2作目。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物――箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶという話。前作よりもボリュームがあり、エンタメとして文句無し。ただ序盤が少し冗長だったのが残念…

姑獲鳥の夏 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第1作目。古今東西のミステリの中で京極堂シリーズは桁外れに面白い。その1作目である本書は最もコンパクトにまとまっており、一番オススメです。「妖怪小説」といえるほど作品の中で妖怪が重要な位置を占めており、この妖怪に関する薀蓄が素…

青の炎 / 貴志祐介

高校生の男の子が平和な家庭をぶち壊す闖入者を殺そうとするストーリー。「デスノート」なんかと同じ、正義のために人を殺そうとする話なので、殺人がテーマなのに前向きな内容でした。主人公が殺そうとするおっさんは本当にイヤなヤツで、母親に言い寄るわ…

悪意 / 東野圭吾

東野圭吾のミステリはまだ数えるほどしか読んでませんが、これが一番完成度高いんじゃないかと思います。相変わらず乾燥した文章というか、生きの悪い文体ですが、それすらも作品の雰囲気に貢献しています。「手記」によって事件を語るという技法もなかなか…