何食ったらこんな偉大な思想家が生まれるのか徹底解説――J.S.ミル「ミル自伝」

個人的に尊敬する思想家としてはハイエクニーチェあたりを筆頭に、ヒューム、ノージックフーコーアドラーあたりを挙げるわけなんですが、やはりミルもすごいですよね。LiberalでDemocraticな社会の源流というか、今の当たり前がまだ当たり前でなかった時代の先駆者なわけですから、そりゃ偉大ですわ。さて、そんな自由主義者がいかにして生まれたのか、どのような環境で育ち、どういった人や本に影響を受けたのか、を綴ったのが本書。当時の社会情勢も実況されていて、読み物としても普通に面白い。
ミルさんは、めっちゃ謙虚な御仁なので、あれですよ、自分なんて別に大したことない、ただ単に周りのすげー奴の話を論理的に整理してまとめて議論したり出版しただけ、なんて言ってますけど、経歴見る限り、やっぱミルさんも半端ないです。ポイントは3つ。
(1)ほとんどヒントを与えられず何事も自分で考える教育を徹底的に受けた、(2)演説やディベートで当時の知識人と議論しまくった、(3)本業はサラリーマンで、副業として思想・学問をやっていた(生活のために研究すると徹底的な思索ができないと危惧していた)。

ほかにも、ミルのここがスゴイ

  • まず、父がスゴイ。ベンサム、ヒューム、リカード、といった今でも名の知れた英国トップ知識人との交友関係があり、しかもただ単にお友達というわけではなく、知的にタメを張るぐらいの著作を残している。
  • そんな父により、15歳くらいまでに徹底的な英才教育を受けている。論理学・数学といった基礎を叩き込んだ後は、答えを教えず、ひらすら自分の頭で考えさせて論述させる指導を受けている。
  • まだ20歳にもなっていないときに、ベンサム功利主義に関する著作を読んで「こうして『立法論』の最後の巻を措いたとき、私は読む前とはちがう人間になっていた。」とか言っちゃう。
  • 人類社会のことを常に本気で考えている。
  • かと思うと、20歳過ぎたあたりで、鬱っぽくなり、何もやる気がしない、もうだめだ、とか言い出す。
  • でも詩のおかげで元気になる。しかもワーズワース。論理だけではなく、感性も大事なのだ、とバランスのとれたことを言い出す。
  • 出会ったときすでに人妻であったハリエット・テイラーとの親密な交友関係によっても元気になる。なお、本人は肉体関係的なものを否定している模様。
  • しかし、テイラー女史が未亡人となったあとは結婚。
  • 大学教授とかではなく、論文執筆は副業としてやっていた。本業は東インド会社勤め。しかも、最終的にけっこう偉くなる。
  • 選挙制度改革といった現実の政治問題にも熱心に関わっている。
  • まわりに推されて一度は出馬する。
  • しかも、ほとんど選挙活動していないのに当選する。
  • とにかく謙虚。自分独自の独創的な発想はなく、先人や同時代の才能あふれる人たちの議論を論理的にかみ砕いて紹介することが自分の本分であった、とか言っている。とくに妻となったテイラー女史とその連れ子は、自分よりも独創的と評価。
  • 女子選挙権の実現にも熱心。

参考

自由主義(他者に危害を加えない限り、個人の自由は尊重されるべき)の入門書には、その極北の形態であるリバタリアニズムから俯瞰する本書がベスト。

ハイエクの中でも難しい。裁判官の仕事は組織の長の仕事とどう違うか、といった一見するとどうでもよさそうに見える問いから、近代社会の前提をときほぐしていく名著。