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似たようなおじさんには無限に出会えるのに本当の家族には1ミリも出会えない話──グレッグ・イーガン「堅実性」がすごい

SFマガジン 2023年 12 月号 [雑誌] 早川書房 Amazon 久しぶりにグレッグ・イーガンの新作が読めるということで買ってきました。いや、マジでこのためだけにSFマガジン買う価値がある傑作です。 ストーリーとしては、無限の平行世界に何の前触れもなく飛ばさ…

想像力を鍛える20年代最強のビジネス書──冬木糸一「「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門」がすごい

2023年は生成AIの普及により、人類に残された仕事が何になるのか心配になるくらい激動の年でした。2024年も、戦争、気候変動、核融合、宇宙開発、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)と様々なニュースが飛び交い、これからどうなるのかまったく予想が…

誰が得するんだよこの本ランキング・2018

誰が得するかは知らないが、少なくとも私が得したことは間違いない、そんな年間ベスト本の紹介です。 実用書 ナシーム・ニコラス・タレブ 「反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」 MBAにおける意思決定の講義では、それぞれのシナリオごとの確率…

MBA受験生は必読――ふろむだ「人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている」

非常に面白かった。欧州のトップスクールに留学していると、キャンパスビジット対応で「MBAに来ると、どんないいことがあるのか?」と聞かれることが多い。「MBAでどれだけスキルが磨けるのか? そもそも、どれだけ優秀な人ならMBAに来れるのか?」といった…

教育関係者は必読――新井紀子「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」

機械学習(世間でよくいわれるAI技術)は、文章の意味を理解することなく、統計的に「だいたいあってる」答え(パターン)を導き出しているだけのアルゴリズム。深層学習でその精度が高くなったので話題になっているにすぎない。 しかし、そんな程度の機械学…

MBA留学する前に読んでおきたい5冊

MBAは何かを学ぶ場というよりも、知識も経験もある社会人が、お題に対して自らの仮説を提示したり、クラスメイトの仮説をクリティカルに検証する場なので、丸腰で臨むと死ねます。なので、講義では当たり前すぎてスルーされるけど、やっぱりこれは知っておい…

誰が得するんだよこの本ランキング・2017

誰が得するかは知らないが、少なくとも私が得したことは間違いない、そんな年間ベスト本の紹介です。 私は好きにした、君たちも好きにしろ、的な精神で自由に選出しています。 過去のランキングはこちら。 誰が得するんだよこの本ランキング・2008 誰が得す…

光速の半分のスピードで既知の宇宙を削ってくるソラリスの海――イーガン「シルトの梯子」

イーガンの作品はいつもぶっ飛んだ設定の中で、しかしその中でこそリアルな問題として立ち上がってくる「わたしがわたしであるということは、どういうことなのか」というごくごく個人的な悩みが作品のテーマになっており、好きなんですよね。 まず、ぶっとん…

グロテスクなんだけど読み始めたら止まらない系のマンガ5選

グロいの苦手なんですけども、たまに面白いのもあるから困る。 メイドインアビス ぶっちゃけ、これを紹介したくてこの記事を書きました。「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で紹介されていたので読んでみたのですが、噂にたがわずスゴ…

誰が得するんだよこの本ランキング・2016

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です(出版年ベースになっていないのでご留意ください)。かつては実用書・フィクションからそれぞれトップ10を選んでいたものですが、今年は忙しくてその気力がないので適当に紹介して、お茶を濁…

誰が得するんだよこの本ランキング・2015

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です。

政治に巻き込まれる科学、それでも抵抗する科学者――上橋菜穂子「獣の奏者」

面白かった。一応ファンタジーのくくりにはなると思うんですが、ご都合主義的な魔法とかは出てこない。舞台は中世の技術レベルで、謎の巨大生物(闘蛇・王獣)を軍事利用している王国になります。主人公はこの動物の世話をする職業に就くのですが、その立ち…

ゼンデギ / グレッグ・イーガン

余命少ない主人公マーティンが、自分の死後も息子が周囲の環境に惑わされることなく、健全に育ってほしいと願い、そのために自分の脳のパターンを電子的に模倣する代理人格を作り、そいつに息子の指南役を任せる、という話。これはSFとして考えると地味だが…

無政府状態から契約の束として政府が誕生する瞬間――高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」

最高に面白い、の一言に尽きる。笑って読める「未開の地見聞録」でありながら、政治学の文献としても読める。なぜソマリアでは内戦が続いているのか、そしてソマリア北部・ソマリランド内では、なぜ内戦が終結して武装解除ができたのか、しかも国連やアメリ…

深紅の碑文 / 上田早夕里

素晴らしい。ホットプルームによる劇的な火山活動と、火山灰がもたらす地球規模の寒冷化を目前に控えて、人類がどう行動するか、という話なんだけど、これがまたひどくつらい政治と外交と貧困の話になっています。この世界では、身体改造によって海洋生活に…

誰が得するんだよこの本ランキング・2014

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です。昔は実用書・フィクションからそれぞれトップ10を選んでいたものですが、今じゃそんな余力はありませんので、トップ3だけ紹介します。正直、実用書の方はかなり不作で、例年だったら圏外だ…

2014年最大の収穫かもしれない――上田岳弘「太陽・惑星」

とんでもない新人が出てきたな、と読了して思った。本書は中編が2つ入っているが、そのどちらも長編3冊分くらいを凝縮したような濃度となっており、大変読みごたえがあります。まず「太陽」。これは、人類の歴史をものすごくミクロな、俗っぽい個人の描写を…

歌うクジラ / 村上龍

最近の村上龍は「カンブリア宮殿」で、強引に経営者の成功の秘訣をまとめたりしていて、成功の十分条件でないもののをあたかも統計的に有意な十分条件であるかのように喧伝する自己啓発書のような胡散臭さを帯びていて、正直ちゃんとした小説を書いているの…

華竜の宮 / 上田早夕里

いやー、よかった。プルームテクトニクス理論を援用しながら、想像する海面200m上昇した近未来。肉体改造して海上での生活に適応したステートレスな新貧困層と、昔ながらの大地を基盤とする国家との対立。人間のDNAを基にして造られた舟の代わりになる巨大…

誰が得するんだよこの本ランキング・2013

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です。

神は沈黙せず / 山本弘

面白い。この世界はどこかのコンピュータ上で走らせているプログラムなのではないか? という、いわゆる仮想現実ものなのだが、それをサポートする材料として超常現象を扱っている。これには、UFO、UMA、心霊現象、空からカエルが降ってくる現象など、実在の…

新・電波利権ver.2 / 池田信夫

業界を飛び出して独立した人が古巣の膿を洗いざらい吐き出す光景は、常に痛快だ。本書は元NHK職員が放送・通信業界が、いかに規制に守られて非効率的なことになっているかを暴露した本だ。電波というのは公共の土地みたいなもので、周波数というのはその番地…

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 / 大鹿靖明

原発のコストは安いのか高いのか、再生可能エネルギーとしてこれから競争力を持つのは太陽光なのかどうか、そういった基本的な事実の認定にさえ、社会的なコンセンサスはできていない。では、どうすればいいのか。ハイエクなら、「市場に発見してもらう」と…

ラノベの域を超えた快著――至道流星「羽月莉音の帝国」

素晴らしかった。国を創る。それも世界のシステムに変革をもたらすような帝国を創るという、壮大な物語だった。本書は新世紀の小林多喜二「蟹工船」になる。 当然、日本からは領土をぶんどって独立宣言をしなくてはいけない。その後は領土を守るための軍事力…

誰が得するんだよこの本ランキング・2012

2012年は、中学高校時代に読んだ名作の書評をたくさんアップしました。ずっと温めてきたものを一挙に放出したので、例年よりもハイレベルのラインナップです。気持ちとしては「誰が損するんだよこの本ランキング」にしたいところですが、ブログ名との兼ね合…

BEATLESS / 長谷敏司

AI(人工知能)が人間よりも賢くなってしまった時代に、人間の役割はあるんだろうか。このテーマを軸に、あくまでもAIは人間の道具にすぎないとしてAIを排除する思想と、もう難しいことは全部AIに任せちゃってしまっていいんじゃないかという思想が対立する…

未完のファシズム / 片山杜秀

日本はなぜ負けると分かっていたのに、あんな戦争を始めたのか? ―――という問いには決まってこう答えられる。ファシズムのせいだ。一部の権力者に権力が集中する体制だったから、あのような無謀な動員が可能だったのだ、と。それに対して、本書は、ファシズ…

完全独習統計学入門 / 小島寛之

今までずっと逃げてきた統計学だけど、もはや進退きわまって手を付けざるを得なくなった、が、ド文系の自分になんか所詮無理ではないか、という絶望の淵に立たされている人にオススメの一冊。僕もこれでようやく克服できました。入門中の入門であり、巻末の…

ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質 / ナシーム・ニコラス・タレブ

経済学を批判してドヤ顔したいなら、終わコンのマルクスなんか読むよりもタレブを読んだほうはずっとよい。なにせタレブの射程は、経済学などというマイナーな学問領域に留まらず、経験科学全般に及んでいるからだ。 それは、帰納の問題である。僕たちが真理…

最後の家族 / 村上龍

村上龍の小説のなかでは一番とっつきやすい。なぜなら、特殊な主人公が出てこないからだ。たとえば、同じく引きこもりを題材にした「共生虫」においては、自分を特別だと勘違いしている主人公が、その勘違いを訂正されることもないまま、未知の森の奥へと突…