深紅の碑文 / 上田早夕里

素晴らしい。ホットプルームによる劇的な火山活動と、火山灰がもたらす地球規模の寒冷化を目前に控えて、人類がどう行動するか、という話なんだけど、これがまたひどくつらい政治と外交と貧困の話になっています。この世界では、身体改造によって海洋生活に適応した海上民と呼ばれる人たちがいるのですが、この海上民と陸上民(身体改造していない人たち)が、いつか来る世界の滅亡に備えてお互いに資源を略奪しあうという、構図なのです。世界的な危機を世界中の人たちが一致団結して解決するという、清々しい話とは対極の、きわめて泥臭く、窒息しそうな紛争解決交渉に費やされています。
しかも、それを中央のいわゆるお役人の立場から描写せずに、海上民の過激派武装組織のリーダーの立場から描写したりするのですね。それも、反政府運動の旗手みたいにヒロイックに描かずに、ただひたすら、どうしようもない困窮におかれた仲間を助けるために行動していたら、気付いたらテロリスト呼ばわりされていた、という形なのです。これがまたいい。本当に、設定の端々から、物資の足りなさというか、世界全体の資源が不足しているとはどういうことなのか、というのが伝わってきます。
そんな中で、「もうこの際人類が滅ぶかもしれないんだから、人類の種としてのデータを宇宙船で何光年もの先の惑星に飛ばそう」という運動も出てきます。当然、これは普通の人たちからは残り少ない資源を浪費するな、とガチ切れされて、テロの対象になったりするのですが、少なくとも、この絶望的な世界においては、夢や希望になっているんですね。「華竜の宮」の続編ですが、より面白くなっているかもしれません。