MBAは何かを学ぶ場というよりも、知識も経験もある社会人が、お題に対して自らの仮説を提示したり、クラスメイトの仮説をクリティカルに検証する場なので、丸腰で臨むと死ねます。なので、講義では当たり前すぎてスルーされるけど、やっぱりこれは知っておいた方がいいんじゃないか、という基本装備を紹介します。
津田久資「「超」MBA式ロジカル問題解決」
タイトルがちょっとアレなんですが、仮説思考、MECEがとてもよくまとまっています。課題を解決するアイディアがぱっと思いつけば最強なんですが、私たち凡人にはそれは無理なので、状況を場合分けして、とにかく手触り感のあるレベルまで細分化してから、考える、というプロセスを踏まないと何もいいアイディアが浮かばないんですよね。例えば、「公園のハトが減っているが原因を洗い出せ」って言われても、パッと「環境ホルモンかなんか?」としか思わないのですが、もれなくだぶりなく、場合分けしていくとこんな感じになります。
- まず、ハトの減少は、(1)流入減少か、(2)流出増加に場合分けできます。
- (1)流入減少は、(i)ひなの数減少×(ii)ひなの育つ率の減少に場合分けできます。
- (i)ひなの数減少については、(i)卵の数減少×(ii)卵の孵化率減少で説明できます。
- (i)卵の数減少は、つがいの数が減った or 一つがい当たりの卵の数が減った、しか論理的にありえません。
ここまでいくと、最初よりも大分発想しやすくなるんじゃないかと思います。最後は、ロジカルシンキングだけではたどり着かない、ある種の「跳躍」が必要なのですが、その精度を高めるための下準備が、仮説による場合分け、というわけです。
安宅和人「イシューからはじめよ」
基本的な思考のフレームワーク本として、これもオススメです。MBAの講義はケーススタディなので、事前に膨大な情報のある(そして同時に散漫な)ケースを読み込む必要もあります。また教科書も読んで来いと言われるので、とにかく情報量が多い。なので、結局「白黒はっきりさせないと致命的な仮説・主張はなにか」というイシューを見極める必要があります。
なお、イシューは、「Why」ではなく、「Where」「What」「How」のように具体的な問いになっています。
イシュー・ドリブンはケースだけじゃなくて、ビジネスプランを一から企画するプロジェクトでも有効です。たとえば、起業プロジェクトでは、3つのスタート地点があります。(1)顧客のニーズ、(2)テクノロジー(AI、IoT、ブロックチェーン……)、(3)人(こいつならこれができる)。このうち、(2)と(3)はイシューになりづらくて難易度が高いです。何をどのようにやれば売上が立つのか、という思考ではなく、とりあえず今ある道具でどこまでできるかという思考なので、いっぱい調べてパワポの枚数は増えたけど結局インプリケーション皆無なゴミ資料が出来上がります。つらい。
(1)については、イシューになりえます。すなわち、
- どこかに具体的に困っている人を見つけて(Where)
- その人がお金を払ってでも片づけたい用事は具体的に何かを定義し(What)
- その用事をどのように片づけてあげるかに答える(How)
これができれば、売上が立ちます。
クレイトン・M・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」
名著of名著。あまりにも名著すぎて、みんな知ってるよね?というノリで講義でもさらっとしか説明してくれません。つらい。優秀な人を高給で雇えて資本力もある大企業がなぜ、時代の変化についていけずに、ぽっと出のベンチャーに負けるのか、という失敗の経営学ですね。成功例だけ集めて再現性ゼロの法則を語る本より100倍役に立ちます。ざっくり概要だけ言うと、大企業は優秀な人を雇っているがゆえに負ける、というのが結論です。すなわち、優秀な人を養うにはそれなりに大きい市場を相手にする必要があるため、大企業は、その構造的に、しょぼい市場は無視せざるを得ないわけです。しかし、大企業がしょぼい市場(ユーザー数も少なく、製品のクオリティも低く、商品単価も低い)と認識していても、ひとたび市場が存在すれば企業の設備投資により急速に技術は伸びるので、どんどんユーザー数も、クオリティも、単価も伸びていきます。
一方、大企業は、よりハイクオリティ・高単価の市場に「選択と集中」する、という手がありますので、まだまだ余裕です。しかし、その余裕によって意思決定が遅れ、最終的には衰退します。
- コダック「ソニーのデジカメ? やっぱフィルムは紙だよ。あんなクオリティ低いの、おもちゃみたいなもんだよ」
- ガラケー「スマホ? あんな低機能な商品にうちの高機能商品が負けるはずない」
- 据え置きゲーム「ソシャゲ? あんなしょぼいグラフィックの商品、ゲームとは呼べない」
はい。無事死亡しましたね。
いつか、そのうちと言っているうちに人生は終わる。だから読むんだクリステンセンを。
ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」
これは直接役に立つというよりかは、教養枠ですね。行動経済学の選択科目では必ず紹介されますし、リーダーシップや起業論でも紹介されます。なぜかと言うと、これらの領域って十分な情報がない不確実性の高い状況下で意思決定しないといけないんですよね。そうすると、人間の認知の仕様上、バイアスのある直感で、えいやって決めてしまいます。少なくとも、どういう方向のバイアスがあるのか、ということを知っておくのは有用です。たとえば、まったく知見のない領域で「はい、今から5分間周りの人とディスカッションしてくださいねー」と言われても、「人間の認知にはバイアスがあって、このケースでは、みんなAという方向に行きがち。そっちはレッドオーシャンだから、あえて反直観的なBを選ぶべき」と発言して、会話を成立させることが可能です。