神は沈黙せず / 山本弘

面白い。この世界はどこかのコンピュータ上で走らせているプログラムなのではないか? という、いわゆる仮想現実ものなのだが、それをサポートする材料として超常現象を扱っている。これには、UFO、UMA、心霊現象、空からカエルが降ってくる現象など、実在の事件が詳細に取り上げられている。こんな不思議なことが起こるからには、世界の成り立ちを恣意的に操作している誰かがいるに違いない、というのだ。これだけならトンデモなのだが、本書が面白いのは、そういったトンデモを本気にしちゃった宗教団体が作中ではわんさか出てきて、多種多様なトンデモたちが競合するメタ・トンデモ小説になっているところだ。
「トンデモ本の世界」に出てくるような短絡的な説はどんどん現実との辻褄が合わなくなり、淘汰されていく。単なる見間違いや捏造は次々と暴かれていく。

ただ、それでも信憑性の高い超常現象があるわけで、このあたりうまく説明する仮説が、前述の仮想現実ネタと絡んでくるのだ。それに答える形で、人工知能が人間と同じレベルまで進化するにはどうしたらいいか、という難問にも答えており、SFとしては非常に面白かった。
また、超常現象をむやみやたらに肯定してしまう心情や、ユダヤ人が世界を支配しているといった陰謀論、ひいては宗教まで同じ視点で語っているところも面白い。
宗教とは、神による陰謀論である、というのも名言だ。
人間には不条理な事があると、それを偶然の産物としてとらえるよりも、何らかの意味があったと考えたがる。例えば、何か邪悪な組織が仕組んだ陰謀だったのだ、とか。そうすることで、今の自分の不幸に理由を付けて、安心したいのだ。そして宗教とは、この世界そのものを神が仕組んだ陰謀だとすることで、すべてに一応の理由を与えて、人を安心させるものである、というのだ。
超常現象に対するとらえ方が時代によって変わってきているというのも興味深い。例えば、羽根の生えた小人が飛んでいたら、昔だったら妖精とか妖怪になっていたかもしれないが、今では小型の宇宙人ということになるだろう、とか。