虚構機関

アンソロジー伊藤計劃The Indifference Engine」がずば抜けて面白かった。民族紛争後、「自分の部族と他の部族の見分けがつかなくなる」脳神経的処置を受けた少年兵の話。近代合理主義の立場から戦争の原因を分析すると、部族の違いから来る差別の歴史とかになるわけだけど、戦争の原因はそんなところにはなくて、もっと残酷なものかもしれない。これが面白かった人はテッド・チャン「あなたの人生の物語」収録の「顔の美醜について」もオススメ。他に気になった作品は山本弘円城塔、八杉将司。

山本弘「七パーセントのテンムー」

哲学的ゾンビもの。トンデモ本の作者への悪意をびんびん感じる。なんだろう。嫌なことでもあったのだろうか。「トンデモ本の世界」のころはこの愛すべきバカ野郎たちって感じだったのに。オチで一応フォローしてるけどあんまりフォローになってないような気もする。

円城塔パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語

短編の形にすらなっていない。ショートショート×8みたいな作品。出オチみたいな作品もあれば、ワクワクするようなほら吹きコラムもある。「紐虫をめぐる奇妙な性質」や「涙方程式始末」は面白かった。逆に想像力が追いつかなくて冷めてしまったのは「縞馬型をした我が父母について」。円城塔はアイディアの作家としてやっていきたいようだけど、この辺でふつうのアイディアでいかにエンタメするかに取り組んでほしいなあ。文体の作家でもあるのだから。

八杉将司「うつろなテレポーター」

「紫色のクオリア」みたいなライトノベル風でしかも遠いところまでいくSF。この著者の作品を読むのははじめてだったけどよかったです。こういう発見できるのがアンソロジーのうまみですね。内容は、人工知能がテレポートのたびに量子力学的な干渉を受けて……という話。