「ハリー・ポッター」のように魔法が使える世界というだけでげんなりする人もいるだろう。しかしこの作品は、そうしたファンタジーの王道に飽き飽きしている人にもオススメしたい最高に読ませるエンタメなのです。魔法が使えるといっても、耐久力は生身の人間と変わらないので、一人一人の市民が核兵器を所有しているような社会です。この過剰な攻撃力のため、一人でも凶暴な犯罪者が現れると社会が崩壊してしまう。それを防ぐために徹底した管理社会をしいて異物を排除するしかない。魔法が万能ではなく、むしろ魔法があるがゆえにいびつな社会構造をとらざるをえないというのがこの作品の肝。だから無邪気に学園ものをする余裕はなく、安全保障のために平気で人命を犠牲にするシビアさがあります。
ファンタジーの売りである架空の生態系の描写もすごい。「クリムゾンの迷宮」のころも、いろいろな生物・環境と出会いながらサバイバルするというのが抜群にうまかったけど、本作でもそれが発揮されている。とくに完全に架空の生物じゃなくて、現代から進化した後の未来の生物ってところがいいですね。ドゥーガル・ディクソン「フューチャー・イズ・ワイルド」みたいな感じ。
作品の大半はハリウッド的な危機に次ぐ危機、バトルに次ぐバトル。けど、それなりに頭脳戦をしてくれるので退屈せずに読める。いや、むしろ止め時を失うくらいに面白いです。やはり攻撃力はチート級だけど守備力は紙レベルという設定がきいているよね。細心の注意を払わないとあっけなく死ぬので戦闘の緊張感が半端ないですよ。どうせ魔法使えるんならATフィールドみたいに防御面に特化したほうがいいと思うんですが、それやると誰も死ななくなってしまいますからね。そういうのはできない設定のようです。
そういえば筒井康隆「七瀬ふたたび」も防御面が貧弱な設定の能力者ものだったなあ。あっちも人がばたばた死ぬし。