オススメ

社畜はゲリラ戦の夢を見るか?――瀧本哲史「僕は君たちに武器を配りたい」

必読。入社する前に絶対に読もうと思っていた本だが、もっと早く読んでおけばよかったと後悔した。以前「高学歴就活生が読むべき4冊」という記事を書いたが、正直これ一冊読めば十分じゃないかっていうくらい情報価値がある。本書の主張は簡明で、それは「コ…

究極の経済学小説――グレッグ・イーガン「しあわせの理由」

経済学では、財は、その使用によってなんらかの効用 utilityを得るための手段です。ここでいう効用とは、快楽であり、幸福であり、欲望の満足です。経済学は財の効率的な分配を研究していますが、それは結局のところ、僕たちが効用を効率的に得るための道具…

至高の恋愛ファイナンス小説――グレッグ・イーガン「ひとりっ子」

たとえば、(1)確実に50円もらえる取引、(2)50%の確率で100円もらえるが50%の確率で何ももらえない取引を考えてみます。期待値はどちらも50円で同じですが、多くの人が(1)の取引を選ぶでしょう。僕たちは、不確実なものが嫌いなのです。このことを経…

天人五衰―豊饒の海・第四巻 / 三島由紀夫

茫然としてしまった。なんなのだ。この終わり方は。76歳になってしまった本多は、今まで築き上げてきた理知に飽き、老いの醜さに蝕まれている。そんな本多が、清顕の生まれ変わりとして見出した透は、自分を特別だと思い込んでいる美少年で、現代の文脈でい…

暁の寺―豊饒の海・第三巻 / 三島由紀夫

恍惚のかたまりを輪切りに薄く切って、その一枚一枚をほうばるような、そんな体験でした。 本書の主人公は、肝心なところで人生を思い通りにできなかった本多なのですが、彼はもうなんかどうでもいいやとやけになって、ひたすら快楽を追求しようとします。そ…

奔馬―豊饒の海・第二巻 / 三島由紀夫

三島由紀夫は「豊饒の海」の第四巻の原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地に日本刀を持って突入し、総監を監禁する、クーデターを促す演説をする、そして割腹自殺をする、という謎の行動に出て変に有名になってしまった人です。 しかし市井の人間には意味…

春の雪―豊饒の海・第一巻 / 三島由紀夫

かつてこれほど僕をにやにやさせた小説があっただろうか。個人的にはドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」を完全に超えた。成金の侯爵の息子で優雅な美少年を地で行く清顕と、大審院判事の息子でとにかく有用な人間になろうとしている本多の物語。これだ…

永遠の旅行者 / 橘玲

中学生の僕の心を最も揺さぶったのが村上龍「希望の国のエクソダス」だとするならば、大学生の僕が最も影響を受けたのはおそらく本書ではないか。 なにせこの本を読んで法曹をめざしたくらいだ。結局、法曹にはなれなかったけれども、本書が提示する法制度の…

世界にひとつしかない「黄金の人生設計」 / 橘玲, 海外投資を楽しむ会

人生を設計すると聞くと、なにやら自己啓発本的な、いかにして成功するかという話かと思いますが、本書は人生とはそのようにポジティヴに語るものではないと主張します。むしろ、どうしたら確実に損をするかを把握し、失敗を回避することをめざすことしか、…

これはペンです / 円城塔

不滅の小説。 中編2編が収録されており、表題作はものを書くとは何かという話で、「良い夜を持っている」の方はものを読むとは何かという話です。そしてどちらも、不滅という珍しいテーマを扱っています。僕は「良い夜を持っている」の方が圧倒的に好きで、…

戦争は変わった――P・W・シンガー「ロボット兵士の戦争」

「戦争は、人びとがほかの人びとを殺すときに始まるのではない。報復として自分が殺されるリスクを冒す時点で始まるのだ」 *1 では、ラスベガス近郊にいながら遠隔操作でアフガン上空を小型飛行機で索敵する兵士は、はたして戦争に参加しているのだろうか? …

不道徳な経済学 / ウォルター・ブロック

人生を左右する一冊というものがある。 僕にとって高校生のときに読んだこの本が、経済学や政治思想にハマるきっかけだった。本書では、社会的に不道徳だとされている人間こそが、ヒーローだと主張する。なぜなら、彼ら彼女らこそが不道徳という汚名を引き受…

臆病者のための株入門 / 橘玲

株を始めたいんだけど、いっぱい本がありすぎてどれ読めばいいかわかんないという人がいたら、問答無用でこの本を押しつけます。それほどの名著。 あまりにも名著すぎて人にオススメするのがもったいないくらいです。おそらく金融機関に勤めている人はこの本…

この国には何でもある。だが、希望だけがない――村上龍「希望の国のエクソダス」

傑作。日本の教育には問題点が主に2つあって、それは「いじめ」と「学校教育が社会に出て役に立たない」というものです。村上龍はこれらの2つの問題を抜本的に解決するために、全国の中学生が一斉に不登校になればいいと主張します。荒唐無稽に聞こえますが…

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 / 村上龍

危機感を持て、と偉い人はよく口にしますが、そんなことを百万回言われても危機感を持つことはできないでしょう。なぜなら、危機感は人に言われて気づくものではなく、自覚するものだからです。そしてただ単に危機感を持つだけではダメです。その危機感をエ…

All you need is survive――村上龍「五分後の世界」

僕が高校生のころ最も好きだった小説。 この小説に支えられてこの歳まで生きてきました。何度も再読して、もはや血肉と化しているがゆえに、この小説を乗り越えることが個人的な目標であったとさえ言えます。そのために、ここまで多くの本を読み、多くの書評…

「善人」は野たれ死ね――村上龍「愛と幻想のファシズム」

苛烈な一冊。中南米の国家債務のデフォルトを機に世界的な金融危機が起こるが、そうした状況に対して何も抜本的な対策をできない日本政府に人々はうんざりしていた。そこで強い指導力のあるリーダーが求められ、「進歩的」な左翼からファシストと批判されな…

法律は買収できる――クリスチアン・シャヴァニュー, ロナン・パラン「タックスヘイブン」

金融と経済のグローバル化を語る上で欠かせないのがタックスヘイヴンとオフショア取引(国外取引)である。現在7兆ドルもの資産がタックスへイヴン45カ国に存在していると言われている。また現在では国際金融の少なくとも半分がタックスヘイヴンを通しており…

五〇〇億ドルでできること / ビョルン・ロンボルグ

あなたなら500億ドルを渡されて、これで世界を救えと言われたら何をしますか? 世界をよくする方法はたくさんあるでしょう。温暖化対策、貧困対策、平和推進……。しかしお金は有限です。どうせなら最もコストパフォーマンスのよいやり方で、世界を救うべきで…

「知」の欺瞞――ポストモダン思想における科学の濫用 / アラン・ソーカル, ジャン・ブリクモン

ソーカル事件というのがあってだな。これはデリダとかいわゆるフランス現代思想の人たちが科学用語を誤用して、わけのわからん謎理論を語るのにブチ切れた本職の科学者が、まったく無意味な、けれどそれっぽい論文をつくって、しかもポストモダンの権威ある…

おれに関する噂 / 筒井康隆

筒井康隆の短編集では一番好き。表題作は、無名の会社員の私生活がいきなりマスメディアの報道の対象になるという、個人のブログが炎上する昨今を予言したかのような作品。なんの脈絡もなくテレビで、「今日は○○をデートに誘おうとしたが断られた」などと暴…

誰が得するんだよこの本ランキング・2008

2008年の年間ベストはまだ作ってなかったので、今さらながら発表します。この年はほとんど小説ばかり読んでいたので、実用書1冊とフィクション19冊を紹介します。ここで挙げられている小説は正直面白すぎて、豊かな人生の定義は面白い本に出会うことだと断言…

誰が得するんだよこの本ランキング・2011

今年は震災や就活でぶっちゃけ本とか読んでる場合じゃないって感じだったんですが、なんだかんだ140本くらい書評を書きました。そこで恒例の年間ベストです。気持ちとしては「誰が損するんだよこの本ランキング」にしたいところですが、ブログ名との兼ね合い…

CODE VERSION 2.0 / ローレンス・レッシグ

未来の古典。法学部生なら全員読むに値する。古典的自由主義の文脈では、自由への脅威は政府がつくる法(law)だとされる。法は、たとえば「未成年が喫煙をすると罰則がある」という形で人々を脅している。 しかし、自由の敵は政府だけではない。コミュニテ…

朽ちるインフラ / 根本祐二

総額330兆円、今後50年間にわたり年間8.1兆円。老朽化した社会資本の更新投資額の試算である。ちょっと眩暈のする数字だが、事実である。インフラというものは一度作ったら半永久的に使えるように思われがちだが、ふつうの建物と同じく老朽化するし、放置し…

復興をエクイティ・ファイナンスする――伊藤滋, 奥野正寛, 大西隆, 花崎正晴「東日本大震災 復興への提言」

政府の復興対策本部によれば、復興資金は原発事故の損害賠償を除いても23兆円に及ぶ。 これほどの資金をファイナンスするためには政府の徴税権に基づいた金融が不可欠だろう。つまり、増税である。すでに「寄付」という名で自発的な所得移転は行われており、…

アンテナ / 田口ランディ

妹は失踪し、母は新興宗教にハマり、弟は発狂する。そんな崩壊寸前の家族をなんとか支えようとする主人公はなぜかSMにハマる。なんというか、これだけ書くと本当にどうしようもない話なのだが、それでもこの話はありとあらゆる困難を解決して一定の結末にち…

コンセント / 田口ランディ

毒にも薬にもならない本が多い中、これほど毒になる小説もめずらしい。突然電池が切れたように生きるのをやめた引きこもりの兄の謎を追うミステリとして、話は進む。だがそれは見せかけだけで実態は強烈なオカルトだ。この作品で描かれるオカルト内容は、気…

12歳でもわかる! 決算書の読み方 / 岩谷誠治

12歳で会計がわかるわけねぇだろ、とか思って読んだら、これはガチ。 仕分けの、あの謎ルールが視覚的にわかりやすく解説されています。はあ、なるほど、これはそういうゲームだったのかと目から鱗。あと財務諸表の見方も、妙なインパクトのある覚え方が紹介…

借金を返すと儲かるのか? / 岩谷誠治

これは分かりやすい。素人が実感できる「儲け」と会計上の「利益」ってけっこう違うので、諸々の企業活動がどのように会計上翻訳されているのかを説明する本書は貴重です。4,5回読んで血肉にしたい一冊でした。