ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 / 村上龍

危機感を持て、と偉い人はよく口にしますが、そんなことを百万回言われても危機感を持つことはできないでしょう。なぜなら、危機感は人に言われて気づくものではなく、自覚するものだからです。そしてただ単に危機感を持つだけではダメです。その危機感をエネルギーに変えてなにかを成し遂げる作業が必要です。たとえば危機感を持っていても現実を変える術を知らずに毎日をぐだぐだと過ごしている人もいるでしょう。あるいは比較的恵まれた環境のために危機感を持たずに過ごせてきた人もいるでしょう。この小説はそういった人たちのために書かれた、危機感をめぐる寓話です。
ただ分子生物学の専門用語がふんだんに盛り込まれているせいか取っつきにくいのが難点です。さすがに瀬名秀明「BRAIN VALLEY」のように受容体の図が出てくることはありませんが、それに近い難しさがあります。まあ、作品にリアリティを与える点では効果的なので仕方ないですが。
ちなみにこの作品で生物学にやたら詳しくなった村上龍は、芥川賞の選考会で円城塔「これはペンです」の科学的記述になんくせをつけたのはあまりにも有名。しかし博士号持っている円城塔が科学表現で間違えるはずもなく、村上龍さん……お疲れさまでーす、という結果になったことも一部では有名。