人生を左右する一冊というものがある。
僕にとって高校生のときに読んだこの本が、経済学や政治思想にハマるきっかけだった。本書では、社会的に不道徳だとされている人間こそが、ヒーローだと主張する。なぜなら、彼ら彼女らこそが不道徳という汚名を引き受けてまで、もっとも重要な価値―――個人の自由―――を守る防波堤だからだ。たとえば、麻薬の売人は本書によればヒーローである。麻薬を使ってラリようが、アルコールを飲んで酩酊しようが、どちらも本人の意思で行われている以上、両者を区別する必要はないはずだ。
にもかかわらず、立法者は麻薬の使用は禁止し、アルコールの使用は合法化している。それによって酒屋の主人は道徳的に非難されることはないが、麻薬の売人はクズ扱いされる。だからこそ、著者は麻薬の売人こそを道徳的に擁護するのである。
もし彼らが身体を張って麻薬を供給しなかったら、一体誰がシャブ中の幸福追求権を実質的に担保するのだろうか。たとえ法律に背いてでも、断固として個人の自由を守る側に立つ、彼らこそが真のヒーローである。