朽ちるインフラ / 根本祐二

総額330兆円、今後50年間にわたり年間8.1兆円。老朽化した社会資本の更新投資額の試算である。ちょっと眩暈のする数字だが、事実である。インフラというものは一度作ったら半永久的に使えるように思われがちだが、ふつうの建物と同じく老朽化するし、放置しておいたら崩落して事故が起きる。とくに橋の老朽化は直接人命にかかわる。にもかかわらず、多くの自治体でインフラの老朽化対策はまったく行われていない。新しい箱モノをつくるのと違って票にならないし、現状のサービスと競合して予算を割きづらいからだ。ただでさえ高齢化により社会保障支出が増え財政難なのに、インフラにも莫大な費用が必要だというのは、かなりつらいところではある。
著者の主張は明快で、民間企業と同じく「選択と集中」をしろ、というものである。たとえば図書館の貸出者数1人あたり費用が1000円かかっていること、公民館の利用1件あたり費用は1万円であること*1 など、行政サービスのコストは高い。このような人命とは無関係な事業にまわす金があったら、老朽化対策をしろ、というわけである。その際に、数字をきちんと出して、納税者にコストを意識させることが重要だ。たとえば「図書館は必要か」と問いかけても、そりゃないよりあったほうがいいしと多くの人が答えてしまう。また普段利用していない人はどうでもいいと思って無視してしまう。結果、無駄な事業の存続が支持されてしまう。しかし、これが1件で1000円もかかっているとなると、それだけのお金をかけてまでそのサービスを続けてほしいか真剣に考えるようになる。行政サービスのコストの見える化にはまったくもって賛成だ。
またPFIの利用も著者の主張である。公共事業は計画を自治体が策定し、その実行段階を入札によって業者にアウトソーシングするのが通常だ。PFIは、計画の策定段階で業者にプランを提示してもらい、自治体はその中で一番よいものを選択するものである。つまり、より民間のプロジェクト運営に近い形で公共事業が遂行されるようになる。
また、対価の支払いとして現金ではなく、自治体が所有する土地を企業に無料で貸す、ということもある。たとえば老朽化した学校の建て替えをPFIでやる際に、業者に余剰地を定期賃貸借させる。業者はこの余剰地にマンションを建てて、その不動産収入を得ることができ、自治体から直接現金をもらわなくても、事業として十分にペイすることになる。これは自治体の持っている資産の運用の民営化である。つまり、自治体の能力・視点ではキャッシュフローを産まなかった資産を、民間が利用することでキャッシュフローを新たに生み出せるようにするということである。

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