誰が得するんだよこの本ランキング・2013

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です。







過去のランキングはこちら。

実用書 第2位 大鹿靖明「メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故」

原発事故直後の政策決定過程を明らかにする傑作。債務超過に陥った東電の処理の話は参考になる。









実用書 第1位 ナシーム・ニコラス・タレブ「強さと脆さ」

リスクと不確実性についてのベストセラー「ブラック・スワン」の続編。非常に面白いし、参考になるところが多い。話の内容は金融危機に限定されず、ファットテールなリターンが期待できる投資分野や、リスクに振り回されないための人生哲学にまで及ぶ。とりわけ、最後の方に出てくる、古代のどこかの王の話はしびれる。その王は戦争に負け、妻も子供も皆殺しにされ、財産も何もかもを失うわけだが、それでも、こう言ってのけるのだ(意訳)。
「あれらは、もともと私のものではない。妻も子供も、彼女ら自身の所有しているものであり、私が所有しているものではない。私の財産も、結局のところ私そのものではない。私は私自身を所有しているだけであり、それ以外に真に持っているものなどなく、ゆえに、今、私は何も失っていない」
すげえ。ポートフォリオを全部溶かしただけで人生に絶望して朝の通勤電車を人身事故で止める人だっているのに、財産だけでなく、妻も子供も失ったこの王は、もともとそれらは自分がどうにかできるようなものではないと、初めから覚悟しているのだ。すべてを失ってしまってもいいという諦めとも言えるが、どちらかというと、自分が身一つでできること以外の世界の全てについて、一切の期待を持たないという、とてもとても強い態度のように思われる。この圧倒的な執着の無さ、不確実な現実に右往左往する僕のような人間からすると、学ぶところが多い。



フィクション 第1位 至道流星「羽月莉音の帝国」

素晴らしかった。国を創る。それも世界のシステムに変革をもたらすような帝国を創るという、壮大な物語だった。当然、日本からは領土をぶんどって独立宣言をしなくてはいけない。その後は領土を守るための軍事力を持たなければならない。それだけなら反政府武力組織にすぎないので、今度は他国の政府から国家として承認をもらわなければならない。この全てを行うためには途方もないお金が必要になるから、それも稼がなくてはならない。
実際本書の中身はほぼ金儲けの話に当てられている。小説風味のビジネス書として読んでもらってもいい。しかも、ビジネスモデルが「これは」と思わせるような新しさを持っていて驚かされる。とくに終盤では証券市場まで設立してしまうのだが、これなんか現状の「監査してもらう側の企業が監査法人を雇う」という粉飾決算の温床のようなシステムを丸ごと改革するもので、単純に素晴らしいと思った。
村上龍「希望の国のエクソダス」「愛と幻想のファシズム」を好きな人にオススメ。
この本の何が素晴らしいかっていうと、それは「世の中の大勢など、しょせん自分にはどうにもできない、だったら趣味的に生きてささやかなしあわせで満足すればいいか」という諦念を吹き飛ばすところにある。世界はそんなつまらないものじゃない。その奥底を開いて見てみれば、それはもう大変だけど、それでもやっぱり面白いのだ。魔法も超能力も要らない。人力だけで世界は変えられる。そんな可能性がほんのわずかでも残っているというだけで、人生は面白い。とにかく極上のエンタテイメントであるし、人によっては人生の糧となるだろう。とにもかくにも読んでほしい。