誰が得するんだよこの本ランキング・2014

年末の恒例行事。この1年で僕が読んだ本からのベスト本の選出です。昔は実用書・フィクションからそれぞれトップ10を選んでいたものですが、今じゃそんな余力はありませんので、トップ3だけ紹介します。正直、実用書の方はかなり不作で、例年だったら圏外だったかもしれないレベルです。しかし、本当に本を読む時間が減ってしまった……。アマゾンの注文履歴を振り返っていたら、「シドニアの騎士キンドル版を一気に大人買いしていたりとかして、ついつい安易なマンガに流れてしまう自分がいました。


過去のランキングはこちら。

実用書 第3位 戸部良一ほか「失敗の本質」

表立って主張したりせずに、「阿吽の呼吸でわかってくださいよ……」ってのが、どこの組織でも本当に多いですが、そうした空気というのは、戦前からある根深いものなのだと驚嘆できます。旧日本軍と、現在の会社組織があまり変わっていないことを実感するための本。





実用書 第2位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ」

理論物理学者の著者が、様々な分野の専門家300人にインタビューした結果をまとめて、未来予測をした本。人によっては非常に楽観的に思えるかもしれないが、これらのテクノロジーのプロトタイプはすでに存在しているとのことであり、著者によれば、かなり保守的に見積もった未来像らしい。





実用書 第1位 ロイ・バウマイスター, ジョン・ティアニー「WILLPOWER 意志力の科学」

自己啓発本が嫌いだ。○○をすれば成功する、というのは、たまたまの必要条件でしかなく、同じように○○をして失敗した人たちの骸がいっぱい転がっているが、そういった失敗者は本を書かないので、いつまでもバイアスのかかったメソッドが出回っている、と信じている。
しかし、一切自分の生活習慣を向上させないのもどうかと思い、出来るだけ、学術論文に基づいてかかれてそうな本書を手に取ってみた。大事なポイントはいくつかある。

  • 自制心(自己コントロール能力)の高さだけが、子どもの将来的な成功と有意に相関している(IQは実は関係ない)。
  • 自制心は、筋肉のように鍛えることができる。どんな些細な事でもいいから、毎日必ず○○をする、という人は、概ね別の局面でも自制心を発揮できる(例として、ジャングルの中でも毎日ひげそりを欠かせない探検家のエピソードが紹介される。ホントか? という気もしないでもないが、自分の短期的な欲望を無視して行動できる習慣を身につけよう、というふうに解釈すれば納得できる)。 
  • 自制心は、消耗するものである。貴重な資源なので、何にでもストイックに立ち向かうべきではない。
  • 自制心は、血糖値(血中グルコース濃度)と相関している。このため、空腹の状態ではまともな意思決定ができない。もっとも、炭水化物を摂取してしまうと、急激に血糖値が上がって急激に下がってしまうため、よくない。野菜のような、じわじわと血糖値が上がるような食べ物を朝食として食べるべき。
  • ダイエットは、(当たり前かもしれないが)かなり難しい。空腹になると、意志力の源である血糖値も下がるので、原理的に自制が難しい。

正直言って、本書を読んでもいまだに僕の悪癖(朝起きてから二度寝してしまうこと、面倒くさい家事などを後回しにしまうこと)というのは治っていないが、それでもマシにはなっているのかもしれない……。個人的に、「面倒くさいことから順番にやる」という戒律が一番いいのではないかと思っている。概して、食器洗いとか掃除とか、そういう面倒くさいことはやりはじめたら、案外没頭できるので、そのやり始めまで自分を持っていく難関を、いかに難関とせずに思考停止でやっていくかにかかっているのではないだろうか。もし、こんな本もいいよ、というのがあったら紹介してほしいです。



フィクション 第3位 上田岳弘「太陽・惑星」

色々な面白さがある作家だと思う。人類の終末という、ものすごくマクロな視座を十分な説得力で語りつつ、そこに至るプロセスを、ものすごくミクロな、どうでもいい個人の人生のつなぎ合わせで語るという展開力、これがまず素晴らしい。また、二つの中編「太陽」も「惑星」もちゃっかり、タイトルがそのまま主人公にもなっており、ちょっと笑える。文体も、軽くはないが、固すぎもせず、多少コミカルなところもあってよい。



フィクション 第2位 上田早夕里「華竜の宮」

いやー、よかった。プルームテクトニクス理論を援用しながら、想像する海面200m上昇した近未来。肉体改造して海上での生活に適応したステートレスな新貧困層と、昔ながらの大地を基盤とする国家との対立。人間のDNAを基にして造られた舟の代わりになる巨大海洋生物や、それらが変異して環境破壊の原因となっている構図。こういうの、本当にいいですね。設定だけじゃなくて、渋いストーリー展開もいい。主人公は日本の外務省に勤める外交官なんだけど、これがもう本当に非力で、国際政治上の駆け引きや、資源の絶対的な不足からくる経済問題、そしてさらに激変する地球環境、それらもろもろに翻弄されっぱなしなのです。英雄が世界の難問をどうこうするのではなく、一人の、大した力の持たない個人から見た、荒々しい世界の描写というのは、スカッとするような爽快感はないのですが、手に汗握るものがあります。

フィクション 第1位 村上龍「歌うクジラ」

正直また村上龍か……という気がしくなくもないが、これが一番衝撃的だったのだから、選ばざるを得ない。
本書は、高齢化による労働力不足で移民を受け入れたものの、絶対富の不足により内戦状態になり、社会を階層化して分断させることで無理やり治安を維持している100年後の日本を描いた小説であるが、冒頭の30ページ読んだだけで傑作だと予感させた。「五分後の世界」に近い。