青の炎 / 貴志祐介

高校生の男の子が平和な家庭をぶち壊す闖入者を殺そうとするストーリー。「デスノート」なんかと同じ、正義のために人を殺そうとする話なので、殺人がテーマなのに前向きな内容でした。主人公が殺そうとするおっさんは本当にイヤなヤツで、母親に言い寄るわ、妹に手を出そうとするわでもう最低な野郎です。なので主人公の動機に共感してしまいます。

誰にだって殺したいぐらいムカつくヤツは一人か二人いますし、その殺意を「死ねばいいのに」と口にすることだってあります。でも実際に殺すところまでいく人はまずいません。殺したら警察に捕まるとか、刑務所に入るのはイヤだなあとか、生き物を殺すのはゴキブリでも抵抗あるのにましてや人を殺すなんて耐えられないとか、まあ色々な理由があって犯行を踏みとどまるのです。でも空想の中でそのイヤな人間をめっためたにやっつけるぐらいは誰だってします。
この小説は、その空想をリアルにシミュレートしたものです。だからスカッとした爽快感があります。実際に殺害計画を練ったり道具を調達するところなんか生々しくて臨場感がありました。
もちろん、人殺しですからそれなりに後ろめたいところもあります。「どんな場合でも殺人はダメ!絶対!」というモラルが足かせとなって、素直に作品世界に没頭できない人もいるでしょう。しかし、家族のためという大義名分があるので、主人公は(そして読者も)気持ちよく正義の裁き手となれます。正義が悪を倒すという構図は、ここでアンパンマンを引用せずとも分かるように、単純ながらもストレス解消にもってこいなのです。
ラストの自己犠牲も泣かせますね。勝手に人を殺しといてなんて迷惑なヤツだという感想もあるでしょうが、主人公に共感できた人にとってはかなり切ない終わり方です。