完全に奇書――舞城王太郎「JORGE JOESTAR」

ジョジョ2部の主人公ジョセフ・ジョースターの父であるものの、原作においてはほとんど言及されないジョージ・ジョースターの物語。舞城王太郎がノベライズしているわけなんですが、波紋でもスタンドでもなく、名探偵ジョージ・ジョースターとして活躍するというカオスな作品です。舞城……名探偵……うっ、頭が……。となってしまう人もいるんじゃないでしょうか。

わかる。

もう舞城「ディスコ探偵水曜日」みたいな感じで、名探偵連続殺人事件とか、時空の越境とか、平気で出てくるんですよねえ。いや、まあ、ジョジョも6部で宇宙一巡とか、7部で並行世界とかやっちゃってるんで、その本家取りという意味ではいいのかもしれませんが、もうなんか処理しきれない感じです。

ジョジョも舞城も好きなんですが、どっちかというと舞城ファン向けで、ジョジョファンは怒りだしそうなところもあるかなあ。ジョジョシリーズの主要登場人物はほぼすべて出てくるので、夢の対決とかもあったりはします。例えば、バイツァ・ダストとキングクリムゾン同士の戦いとか、究極生命体ディオとスタンドを覚えた究極生命体カーズの戦いとか。でも、その究極のカードのために、入念な準備があるわけではなく、どちらかというと雑な扱いでキャラ達が使い捨てられていく感があって、諸行無常です。

舞城「九十九十九」もそうなんですが、設定とか舞台とかは異常なのに、登場人物の会話とか思考は、リアルな日常性を伴っていて、そのギャップは読んでて吹き出しました。

 

「リサリサ、愛してるよ」

と俺は咄嗟に言っている。

どうして自分がそんなことを言っているのか意味が判らない。

「私もだよジョージ。私も愛してるから」

とリサリサも言うけど、こいつ何言ってるんだ?と俺は思っている。

 

ビヨンドとは何だったのか

ジョージ・ジョースターは、波紋もスタンドも使えませんが、この小説、それもミステリの主人公であることからくる、ビヨンド、という能力を持っています。正確に言うと、この世界が、ビヨンドという作者が書く物語であると喝破した上で、これまでの事象すべてを物語上の伏線として再解釈し、謎解きをすることで展開を進める能力です。自分が作中の登場人物であることに自覚的なメタ小説は、やりすぎると読んでいる人が白けてしまうので、そのあたりの匙加減が難しいですね。ジョージ・ジョースター自身も最初は半信半疑なので、その辺はわりとよかったですが、窮地に陥ると、基本の戦闘能力が低いので、神(ビヨンド)頼みになるんですよね。うーん。どうなんでしょうか、これ。能力者バトルものとしては新しい気もする一方、ここでいう神=ビヨンド=舞城、ってことですからね。ご都合主義感半端ないわけです。そうすると、いくら世界が滅亡の危機に瀕しようと、いくらラスボスが強かろうと、ビヨンドはん……あんた一体何がしたいんや……、というお気持ちになります。