火力発電でも人は死ぬ――マックス・カーボン「原子力―それは加害者か被害者か? 」

福島第一原発の事故以降、「ほれ見たことか。原発は日本じゃ無理」という声が高まっています。しかし原子力が他の代替発電に比べて危険だということが証明されないかぎり、原発を廃止すべき理由にはなりません。
たとえば「「テラワット/時」当たりの平均死亡率は、石油の場合36人、石炭の場合は161人、原子力の場合は0.04人」というデータがあります。世界レベルで見れば、原子力はかなり安全な部類なのです。工学博士の著者は、アメリカでは火力発電所の大気汚染が原因で毎年3万人程度が亡くなっているから原発は相対的にマシ、と主張します。

これら微粒子を出す最大の源は化石燃料の燃焼です。これには、石炭・天然ガス・石油・ディーゼル燃料・ガソリンと木材が含まれていますが、群を抜いて最悪の源となっているのは石炭火力発電所です。
NRDC*1 は、およそ6万4000人がこれら微粒子のために平均よりも早く死亡すると分析しています。微粒子による心臓と肺の病気のためなのです。この数字は米国の239の大都市についてのもので、全米では毎年10万人程度であろうと見ています。汚染のひどい地域では平均寿命は1〜2年短くなっています。これらの死亡の内3分の1は、発電所からの微粒子によるものと推定しています。(中略)恐らく、火力発電の替わりに原子力発電を行っていることによって、毎年何千もの人命を救っているでしょう。


ただ、著者のリスク評価は少し甘い可能性があります。チェルノブイリ事故の死者数を24000人と見積もっていますが、これは少なすぎるかもしれません。*2 たとえば原子核物理学者・瀬尾健は「晩発性の障害はまだ顕著には現れていない。(中略)70万人を超える生命が、チェルノブイリ4号炉たった一基の原発事故の代償として、支払われることになる」と主張しています。*3
また、アメリカの石炭火力発電は大気汚染対策をあまりしていないので、日本の石炭火力発電は原子力よりも安全な可能性があります。また化石燃料の中で一番クリーンな天然ガス火力発電なら、大気汚染もあまりたいしたことないかもしれません。
いずれにせよ「原発は危険か」を問うのは無意味です。ただ「相対的にみてマシかどうか」だけが、意味のある議論なのです。
(もちろん太陽光発電バイオマスなどのように安全性の高い新エネがあるので、原発は危険だから新エネに切り替えようぜ、という議論は成り立ちます。ただ新エネはまだ火力発電のように安定供給ができないし、コストも高いので、現実的には火力か原子力かという選択に僕たちは直面しています。個人的には太陽光は技術革新も起きたので、なかなか有望だと思います。)

*1:天然資源保護協議会

*2:本書3p

*3:瀬尾健「原発事故…その時、あなたは!」86p