M9.0の地震に耐えた日本の原発は本当に最強か?――舘野淳「廃炉時代が始まった」

原子力学者が「どの原発地震に耐えられないか」を検証した本。著者は、地震の強さはその規模(マグニチュード)ではなく、揺れの強さ(加速度・ガル)で計るべきと主張します。どんなに規模が大きい地震でも震源地から離れていれば、それだけ揺れは小さくなります。逆にどんなに規模が小さい地震でも直下型地震だったり、たまたま岩盤が脆かったりした場合、揺れは大きくなります。
というわけで、注目すべきは原発はどれだけのガルに耐えることができ、今回の地震はどれだけのガルだったか、ということなのです。

原子力安全保安院によると、福島第一原発の耐震設計は600ガルで、今回の地震は448ガルでした。しかし、この想定内の揺れによって冷却機能が停電するという被害を受けています。決して「想定外の揺れがあったにも関わらず、それに耐えた日本の原発ってすげー」という話ではないのです。

 東日本巨大地震で被災した東京電力福島第一原子力発電所で記録した揺れの最大加速度が、経済産業省原子力安全・保安院が同原発の耐震安全の基準値として認めた数値の4分の3に過ぎない448ガルだったことが18日、わかった。
 地震の揺れは想定内だったが、高さ6メートル以上とみられる想定外の津波が、原発の安全の根幹に関わる機能を喪失させた可能性が高い。
 同原発の2台の地震計で記録された今回の地震の最大加速度は、448ガルと431ガル。東電は同原発で予想される揺れの最大値を600ガルと想定していた。しかし、東電関係者の証言によると、この揺れによって、送電線を支える原発西側の鉄塔が倒れた。その結果、自動停止した原発に送電できなくなり、1〜3号機の冷却機能がストップした。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110319-OYT1T00154.htm

もちろん津波の大きさの方は想定外であり、この津波による被害のほうが大きいとしたら、「想定外の災害に耐えた日本の原発すげー」は成立します。揺れによる被害も「冷却水の配管破断」といった深刻なものではなく「送電のトラブル」ですので、ある意味たいしたことないということもできます。
だから下記の主張のように、津波対策をしっかりすることで安全性の増した原発技術を世界に輸出することも可能かもしれません。

1000年に一度とも言われるM9.0の大地震と想定外の大津波に襲われた中で悲劇的な大事故の発生を押さえた経験は、世界に類のない貴重な情報・データが集積されたことでしょうし、今後の原発建設に多くの教訓を示すことができるはずです。(中略)すなわち今回の事故の経験を生かし、海外に安全な原発を供給する国際貢献とビジネスの機会に変えるわけです。つまり「1000年に一度」の大地震・大津波に耐えた日本の原発として、安全な原発を輸出する機会と考えれないでしょうか。
日本は対地震・対津波で世界最強技術を備えた原発輸出国になれる〜ポシティブシンキングでいこう - 木走日記

原発は環境問題で注目されているが、今回の事故で立地がむずかしくなりそうだ。しかし冷静に考えれば、100年に1度の悪条件で「ストレス・テスト」を行なったことは、その安全性についてまたとない証拠を提供したといえるのではないか。
池田信夫 blog : 最悪の事態は起こっていない

ただ「アメリカでもスリーマイル島原発事故の後は、国内での建造も海外への輸出もできなかった。国民感情がそれを許さなかった」という経緯があるので、事実上、日本の原発は終わコンになってしまったと思います。


追記:2011年4月7日の情報

女川・東海第二原発では想定を超す揺れがあったにも関わらず、高台にあったため津波の被害を回避でき、冷却ができなくなくなる事態にはなりませんでした。やはり津波対策さえしておけば原発は安全なのかもしれません。

 女川原子力発電所宮城県)と東海第二原発茨城県)では、東日本大震災で2006年の新耐震指針の想定を超す揺れが観測されていたことがわかった。東北電力と日本原電が発表した。経済産業省原子力安全・保安院は両社に詳細分析を指示した。
 女川原発は3月11日の地震で自動停止。東北電力地震記録を分析したところ、1〜3号機の9地点で想定を上回っていた。3号機の最下階では、想定の512ガル(ガルは揺れの勢いを示す加速度の単位)の約1.1倍の573ガル。
 1号機で540ガル(想定532ガル)、2号機で607ガル(同594ガル)だった。
 東海第二でも、揺れの周期によっては想定を上回る加速度が観測された。地震計がない部分もあるため、詳しく評価する。
 また、女川原発に到達した津波の高さは最大13メートルに達していた。東北電力が潮位計の記録を解析、7日発表した。原発の敷地の標高は14.8メートルだが、地震で1メートル沈下したことがわかっており、計算上、津波は敷地まで80センチに迫っていた。実際、津波のしぶきの痕跡が敷地の外縁に残っていたという。
http://www.asahi.com/national/update/0407/TKY201104070487.html

追記:2011年5月15日の情報

どうやら津波の前の地震で、配管の破断といった深刻な被害があったようです。やはり「原発自体は地震に耐えられる」わけではないようです。女川原発がレアケースなのか、福島第一原発がレアケースなのかは今のところわかりませんが。

 東京電力福島第1原発1号機の原子炉建屋内で東日本大震災発生当日の3月11日夜、毎時300ミリシーベルト相当の高い放射線量が検出されていたことが14日、東電関係者への取材で分かった。高い線量は原子炉の燃料の放射性物質が大量に漏れていたためとみられる。
 1号機では、津波による電源喪失によって冷却ができなくなり、原子炉圧力容器から高濃度の放射性物質を含む蒸気が漏れたとされていたが、原子炉内の圧力が高まって配管などが破損したと仮定するには、あまりに短時間で建屋内に充満したことになる。東電関係者は「地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない」と、津波より前に重要設備が被害を受けていた可能性を認めた。(中略)
 地震による重要設備への被害がなかったことを前提に、第1原発の事故後、各地の原発では予備電源確保や防波堤設置など津波対策を強化する動きが広がっているが、原発の耐震指針についても再検討を迫られそうだ。
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051401000953.html