NOVA 4

先日の読書会の課題本にしました。このシリーズでは一番つまらなかったかな。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは山田正紀「バットランド」(35/40)、構成とモチーフの関連がすばらしいとの評価を受けました。〈誰得賞〉を授与します。ちなみに最低点を獲得したのは森深紅「マッドサイエンティストへの手紙」(13/40)。低評価の理由は、想像しにくい場面、筋だけ羅列したような文章などでした。これには〈マジで誰が得するんだよこれ賞〉を授与します。
以下ネタバレありで解説。

京極夏彦「最后の祖父」 5点

経験的には死は存在しない。なぜなら死ぬまでは死を認識できないし、死んだあとは死を認識する主体は存在しなくなるからだ。では死を死として認識するためにはどうすればよいのか。主観的には世界の終わりと等しいこの死を認識するためには、客観的にも世界は終わる必要があるのではないか。―――という話として読めなくもない。

北野勇作「社員食堂の恐怖」 6点

謎の触手に支配された会社において、触手を頂点とした新しい秩序が構成されていく。ってなんでそんな適応してんの。このアンソロジーでは一番笑える。

斉藤直子「ドリフター」 4点

男性同士の下ネタありのコントを女性がつくると、こういう感じになるのか。やっぱりこういう下卑た話は男性に作ってもらいたい。品の良さがにじみ出てしまっています。

森田季節「赤い森」 5点

考古学SF。種明かしまでの過程が荒っぽいですよね。もっと地味に実証研究して、とんでもない結論にまで合理的にもってくホーガン「星を継ぐもの」みたいにしてほしいです。

森深紅「マッドサイエンティストへの手紙」 3点

博士きもい。登場人物になにひとつ魅力を感じません。ミステリとしても、一応プロットとしては成り立っているけど、読者に乗ってもらおうという気が無いような感じで、雑。1点をつけた評者もいました。

林譲治「警視庁吸血犯罪捜査班」 7点

吸血鬼が発見されて、しかも完全に排除するには数が多すぎるし、それほど敵対的でもないので、共存していくことになった社会の話。吸血鬼といっても外見は人間とまったく変わらないので、ある意味移民のようなマイノリティをいかに社会と調和させるかという政治の話になっています。

「日本のために沖縄が在日米軍を引き受けろというのであれば、日本のために東京都は吸血鬼を受け入れるべきである!」
全国知事会での沖縄県知事の発言がきっかけとなり、吸血鬼受けいれ問題は、安全保障問題に変質してしまった。

笑った。

竹本健治「瑠璃と紅玉の女王」 8点

このアンソロジーでは一番のお気に入り。神話のような、寓意も教訓も引き出せない単なるお話なのですが、なにか癖になる文体です。ただ評価は分かれる作品です。3点を付けた評者もいました。

最果タヒ「宇宙以前」 4点

詩人の書いたSF。なんかふわふわしてて、それゆえストーリーに没頭できなかった。何が来てもおかしくないような、ゆるふわ世界では、二転三転する展開の感動を味わえないのです。ふーんって感じ。

山田正紀「バットランド」 8点

誰が得しないんだよこの小説。エンタメとして完成しています。認知省の老人という信用できない語り手、音によって周囲の世界と自己を認識しているコウモリの生態、ブラックホールの蒸発をめぐる宇宙論、その個々のモチーフが組み合わさって、見事に物語として着地しているのです。多少、無理やりこじつけてるところもありますが、勢いがあるのであんまり気になりません。中には満点をつけた評者もいました。

交換会で放流されたラインナップ









小林泰三「天体の回転について」、A.R.ルリヤ「偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活」(円城塔が激賞してました)、 横溝正史「女王蜂」、西島大介「土曜日の実験室―詩と批評とあと何か」です。
左から、@daen0_0@huyukiitoichi@BruceSpringseen@Soosanai からの推薦図書です。敬称略。みなさん、ありがとうございました。