実用書

思考の整理学 / 外山滋比古

面白アナロジーでなんとなくわかったような気にさせて、その実まったくなにも得るところがないという驚異の書です。一体何の研究をしている人なんだと思って肩書きを見たら文学博士で、こういうものを読むたびに早く文学部などというものは廃止しなくてはと…

裁判員の教科書 / 橋爪大三郎

裁判員になるかもしれない普通の市民に向けて書かれた本。個人的には何を当たり前のことを言ってるのか、という気持ちで読んでしまった。「刑事裁判で裁かれるのは検察官の主張である」などと言われても、「立証責任は何かを主張する側にある」というディベ…

思考停止社会 / 郷原信郎

アメリカの陪審員制が「12人の怒れる男」だとしたら、日本の裁判員制は「3人の水戸黄門と、6人の助さん・格さん」だ。お上は裁判員に「君こそ水戸黄門の立場なのだからしっかりと判断しなさい」と言う。しかし、お上から押し付けられている時点で、そのよう…

死を生きながら イスラエル1993-2003 / D・グロスマン

おぞましい、とすら思った。道徳的に正しい言論の影に隠された、抑圧的な全体主義に。著者はイスラエル在住のユダヤ人で、パレスチナとの血みどろの紛争について次のように語る。「テロは悪だ。しかし武力では報復しても意味がない。和平しか解決策はない」…

政局から政策へ / 飯尾潤

入学祝に親戚の伯母から宝くじを3000円分もらったことがある。当時の私は「よりにもよって宝くじか」と落胆したものだ。宝くじは手数料率50%超というほとんど金融詐欺みたいな商品だからだ。1000円賭けた瞬間に胴元に500円分徴収され、参加者は残りの500円…

小泉政権 / 内山融

かつて音楽が鳴り響いていた。富の椅子取りゲームの中でみなが踊っていた。自民党システムのもとで「鉄のトライアングル」を築けば莫大な利権を確保できた。大企業の正社員になりさえすれば長期雇用が保証され安定した未来が約束されていた。こうした椅子取…

首相支配 / 竹中治堅

近年まれに見るリーダーシップを発揮した小泉純一郎の政治を、本書では首相に権限が集中する制度によるものだと結論づけている。たしかに小選挙区制が導入されて派閥の影響力が低下したし、小泉政権では経済財政諮問会議がうまく機能して首相に主導権があっ…

自民党政治の終わり / 野中尚人

民主党はよく劣化自民党と呼ばれる。これは自民党による政治は終ったけれど、自民党システムはいまだに終ってないということを示している。公務員制度改革を手に取って考えてみよう。この改革は、1:「年功序列制の廃止」、2:「各省庁による再就職(天下り)…

国家の罠 / 佐藤優

ここにニッポン株式会社がある。会社の持ち主(株主)は《国民》であり、彼らの代表として株主総会で議決権を行使する《政治家》がいる。会社の従業員は《公務員》であり、《政治家》が株主総会で決めたことにそって会社を運営している。会社の目的は、「国…

テロルの決算 / 沢木耕太郎

右翼のテロリストと、彼に殺された政治家を書くノンフィクション。この二人のうちどちらの側に立つかで読者の持つ印象はだいぶ変わってくるでしょう。僕は殺された浅沼稲次郎の側に立ちます。というかテロリスト山口二矢の側に立ちたくないんですね。人殺し…

人類はどこへ行くのか (興亡の世界史)

「歴史とは、合意の上に成り立つ作り話以外の何物でもない」というのはナポレオンの名言だが、これほど歴史の核心をついた言葉を僕は知らない。なぜ歴史は作り話にならざるをえないのか。複雑系の研究者である金子邦彦は科学についてこう述べる。 「世界の多…

天皇はなぜ生き残ったか / 本郷和人

天皇には「祭祀の王」「当為の王」「実情の王」といったさまざまな王たる性質があったがそうした要素は時代の流れにしたがって剥がれ落ちていき、最後まで残ったのが「文化の王」という要素だという。ただ、やや枝葉の議論になるが、鎌倉時代以降、幕府が「…

超・入門 科学する麻雀 / とつげき東北

麻雀関係の本はたいてい根拠のない戦術とそれっぽいだけの精神論が空しく響く麻雀文学とでも呼ぶべきものが多い。これはそんなよどんだ麻雀文化に鉄槌を下す麻雀工学です。統計分析で一番勝ちやすい戦術を明らかにしているので、もうこれさえ読めば他の麻雀…

農協の大罪 / 山下一仁

全体にとって最悪な政策を自分の都合だけでごり押しできる力―――これを政治力と定義するならば、日本最強の政治団体は間違いなく農家である。農家のおかげで日本の農政は矛盾だらけのひどいものになっている。たとえば農家を保護する理由として、食料安全保障…

利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか / フランス・ドゥ・ヴァール

なぜ僕たちは合理的(利己的)でないのか。新古典派経済学では、ヒトはすべて合理的(利己的)に行動するとされている。政治学の合理的選択理論(Rational Choice Theory) においても、その前提は共有されている。しかし、ヒトは合理的(利己的)なホモ・エ…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part3

5.「合理的な非合理性」理論において集計の奇跡がおきない理由 合理的選択理論は、実証的に反例が見つかっている。有権者が利己的に投票するならば、金持ちほど金持ち優遇の政党に投票し、老人ほど老人優遇の政党に投票するはずだ。しかし現実において、金持…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part2

前回のエントリで説明したように日常生活においては明晰な僕たちも、こと投票箱の前ではいかんなく愚民っぷりを発揮する。だが、その愚かさにもかかわらず民主主義は一応機能しているように見える。この理由はなんだろうか。 3.集計の奇跡 そこで思考実験だ…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part1

鳩山政権がほぼ何もしなかったに等しい8カ月を終えた後、管政権になったとたん支持率が急回復して、一体この国の人たちは何を考えているんだと不安になった。経済政策のダメさ加減では鳩山も管もどっこいどっこいなのに、いくら期待をこめての支持とはいえ、…

マネーボール / マイケル・ルイス

少ない投資のわりに異常なほど好成績をたたきだす野球チームのノンフィクション。莫大な金を使っているのに結果はさっぱりっていう状況はよくありますよね。世の中には、そうした状況にたいして「けしからん」と思う人と「これはチャンスだ」と思う人、2通り…

バカヤロー経済学 / 高橋洋一・竹内薫

2009年の衆院選はこの本を読んでみんなの党に入れることを決めたのですが、いま読み返してもまったく現状分析として正確で、いかに民主党が何もしなかったかが確認できました。民主党がマニフェストでかかげた政策は、一言でまとめると所得移転の変更でした…

心をつくる / クリス・フリス

心は脳がつくっている錯覚だという。実験によると、指の動きを心が自覚する0.5秒前にすでに脳は指を動かす決定をしている、ということがわかった。つまり、自由意思をもって指を動かしたというよりも、すでに脳が行動を決定して、そのあとから心が「ああ、そ…

口コミ伝染病 / 神田昌典

昔バイト先のITベンチャーの社長から紹介された本。その人自身、ものすごく仕事ができる人なのでこの本も期待して読みました。いや、想像以上に面白い本です。単なるマーケティング上のテクニックにとどまらない、ビジネスの基本的な部分を押さえています。…

自由はどこまで可能か / 森村進

「なぜ人を殺してはいけないの?」に、ニーチェがマジレスしたら、「それもまた君の信仰にすぎない」とあっさり返すだけだろう。しかし、だからといって現代思想にふれた者すべてが「人を殺すな」という道徳律をなかったことにし、モヒカンがバイクで世紀末…

資本主義と自由 / ミルトン・フリードマン

貧困とか格差について語るならせめて読んでおいてほしい名著。そもそもメディアでは貧困問題と格差問題を区別せずにいっしょくたに議論されているが、この両者は全く別物だ。前者は「絶対的貧困があり、それをセーフティネットによって拾い上げよう」という…

アル・カーイダと西欧 / ジョン・グレイ

イスラム過激派や西欧文明について語られた本の中でもっとも面白い。グレイは「アル・カーイダを中世への先祖返りだとする主張ほど仰天させられるものもない」*1 と言ってみせる。話は逆で、アル・カーイダはまったく近代的なのだ。では近代(モダン)とはな…

文明の接近―「イスラームvs西洋」の虚構 / エマニュエル・トッド

人工学の手法でかのハンティントン「文明の衝突」に喧嘩を売るという非常に面白い本です。 トッドが重視するのは「識字率の向上」と「出生調節の普及」です。この2つが社会を大きく変化させる変数であることを統計的に明らからしい。本当にその手法が有効な…

戦争を論ずる――正戦のモラル・リアリティ / マイケル・ウォルツァー

戦争はすべて「悪」だという人もいるが、現実に戦争が繰り返されている以上、そうした主張はある種の思考停止だ。戦争を「悪」というブラックボックスに詰め込んで、自分は正しいことを言ったと悦に入るだけのいやらしい行為だ。というわけでウォルツァーは…

貧困のない世界を創る / ムハマド・ユヌス

「世界があとほんの少しでもよくなればいいのに」と願う全ての人が読むべき。善意だけで人を助けることはできないけど、善意と冴えたやり方が組み合わされば世界は変わる。そう、ユヌスは身体を張って証明してくれる。 経済学博士であり、バングラデシュの大…

ルワンダ中央銀行総裁日記 / 服部正也

日本人がルワンダで中央銀行総裁として活躍。胸が熱くなるな。などという感想しかこの本を読んで持てなかったら、その人はこの本の価値をまったく評価できていない。たしかにマクロ経済学と会計の知識がある程度なければ具体的な政策についてはわからないが…

脳のなかの倫理 / マイケル・ガザニガ

どこからどこまでが倫理的に悪いのかという問いには伝統的に哲学畑の頭でっかちが答えてきたんだけど、ようやく文学的な韜晦の肥溜めのようなその倫理学に、科学の光が差し込んできた。という話ではない。逆に脳科学の進歩に既存の倫理学がまったく追いつい…