農協の大罪 / 山下一仁

全体にとって最悪な政策を自分の都合だけでごり押しできる力―――これを政治力と定義するならば、日本最強の政治団体は間違いなく農家である。農家のおかげで日本の農政は矛盾だらけのひどいものになっている。たとえば農家を保護する理由として、食料安全保障の点から自給率を上げるためだなどと政治家は語るが、それではどうして減反などという、あえて食糧をあまり作らない政策が続いているのか。これは要するに供給を絞って価格を吊り上げるカルテルにすぎない。
では価格を吊り上げなければいけないほど、零細農家の生活は貧しいかというとそうでもない。農家の多くは兼業農家であり、サラリーマンとしての収入もあるので平均所得は792万円もある。全世帯の平均所得が570万円であることを考えると、なかなか裕福ではないか。農家は価格カルテルによって不当に高い米を売ることで儲けられるし、さらに減反をすることで国から毎年2000億円も補助金がもらえる。こうした状況に都市部のサラリーマンがぶち切れていないことが不思議でならない。
まずもって減反は廃止すべきである。そして国内市場で自由競争ができるようにし、貿易も自由化すべきだ。なぜなら、自由競争に任せた方が供給も増えて価格も安くなるから、食糧安全保障の点からも、消費者保護の点からもメリットある。僕たちが無駄に高い米を買わされているコストは5兆円、農家への補助金のコストは0.5兆円にも及ぶ。
兼業農家「いや、自由競争とかはダメだ。市場原理なんて弱肉強食の道では、零細農家が困ってしまう。大規模農家しか生き残らなくって弱者が見殺しにされてしまうぞ。」
待ってくれ。細々と小さな畑を耕す零細農家様の所得をもう一度思い出してみよう。792万円。では、大規模経営をしている専業農家の所得はというと、これは664万円。
つまり自由競争で潰れるような零細農家は、貧農なんかではなく、むしろサラリーマンの副収入として土日農業をやっているだけなのだ。無理して大規模経営しなくても農地を遊休させているだけで減反として補助金も入るため、むしろ効率の悪い小規模経営の方が儲かるという異常な事態になっているのである。
その割を食っているのが、大規模経営をしたい専業農家で、彼らはもともと減反にも反対なのだが、農家の中では少数派のためその意見は通らない。専業農家は市場が自由化されたならば、生産性の高い大規模経営によって安い米を大量につくれるので、その効率性ゆえに兼業農家を駆逐してしまうだろう。その方が消費者にとっても、納税者にとっても、食料安全保障の点からも、合理的である。
だが全体にとって合理的でも兼業農家にとってはせっかくの利権が取り上げられるので許しがたい。だから過剰な保護を約束する自民党の集票マシーンにだってなってきたし、官僚にも農協という天下り先を用意してあげた。この天下無双の組織力のおかげで今日も農家は安泰なのである。農家さんかっけー(棒読み)。