2円で刑務所、5億で執行猶予 / 浜井浩一

刑法・刑事訴訟法について学ぶ人は読んで損はないです。刑事政策の専門家が、治安にまつわる神話をデータに基づいて検証した本。まず「少年犯罪は減っており、むしろ高齢者の犯罪が増えている」のが意外でした。万引きについては1980年代には50%が少年、10%が高齢者でしたが、2006年には30%が高齢者になり少年を上回ります。また刑務所に入る人の大半が「悪い人」というよりも「経済力を失い、社会的に孤立した人」という実態があります。中高齢者の犯罪は年々増加している今、刑務所が身寄りのない老人のセイフティーネットとして機能している状態です。つまり監獄が一種のベーシック・インカム(BI)になっています。
個人的にBIには、公務員契約としての性質があると思っています。三食・寝る場所という最低限の生活を報酬として与える代わりに、犯罪を起こさないという労務を課す、公務員契約です。そうすると、BI導入は国土の全体を監獄にしてまおうというプロジェクトなのです。
財政状況が良いうちなら労務の内容は「治安の維持」程度で済むかもしれませんが、そのうちBI受給者にもいろいろと貢献してもらわないと回らなくなり、行政サービスの一部をBI受給者の労務として義務付けるでしょう(政府の民営化)。「地域社会への参加」とかならまだかわいいですが「国家への貢献」とかになると管理社会ここに極まれりって感じで怖いです。つまり、BIは行政による私生活の介入を許す建前を与えるわけです。橘玲はこうした理由からBIに反対ですが、なかなか説得力がありますね。
浜井は刑務所が最後の居場所となっている現状に批判的ですが、介護施設も刑務所並みに高齢者の自由が無かったりするわけで、孤立した人たちが社会に参加できる仕組み作りというのは大変な課題だなあと思います。BIによる貧困防止や世代間格差といった問題よりも、この人的結合の希薄化のほうが問題として大きいですね。そもそも孤立する自由もある、といったリバタリアン的な立場も僕は共感できるので、答えが見いだせない。