だまされないための年金・医療・介護入門 / 鈴木亘

読んで損はないです。
社会保険というのは本来普通の保険の一種です。個人がリスクに備えるためにお金を掛け捨てで積み立て、実際に事故にあったらまとまったお金が支払われる。お金の回り方としては宝くじと一緒です。保険は、事故という不運に見舞われたときに宝くじにあたるという幸運がやってくるシステムで、不運を幸運で相殺しようというものなんですね。その代償が毎月の小額の保険料です。
社会保険における不運というのは、年金なら「長生きしてしまうこと」、医療保険なら「病気になること」、介護保険なら「要介護になること」です。合理的な人間ならこれらのリスクのために個人で民間の保険に入るのですが、「おれっちは太く短く生きるんだ!」とかのたまう近視眼的な人間が多いので、政府がしかたなく作ったのが、強制的に保険に入る制度、社会保険です。
しかし日本の社会保険はなぜか賦課方式という、保険としては意味不明な運用のしかたがされています。賦課方式は働いている人間から働けなくなった人間への所得移転ですから、保険というよりも仕送りです。たしかに経済的弱者への所得再分配福祉国家として抑えておきたいポイントですが、なにも社会保険でやんなくもいいんじゃないかと思います。本当に「保険」としての機能を重視するなら、社会保険を賦課方式から積立方式に変えて、所得再分配の部分は負の所得税ベーシックインカムといった税金による社会福祉でまかなえばいいでしょう。しかしそういった抜本的な改革をしてしまうといろいろ大変だと思う人が多いので、負担の将来への先送りにしてなんとかしのいでるのが現状です。結果として、現在の高齢者にはかなりお得なシステムになっています。1940年生まれの人は年金・医療・介護あわせて4850万円の得、1965年生まれは210万円の損、1985年生まれは2270万円の損、2005年生まれは3490万円の損ですから、世代間格差がすごいですね。少子高齢化により将来世代の負担はもっともっと増えていくので、この国で若者やっていくのは正直しんどいです。
また社会保険は実態として所得再分配なのに、保険料徴収というとりっぱぐれの多い運営をしているため未納率36.1%(減免者と猶予者をあわせると52.7%)です。まあ半分くらいの人が年金払っていないわけで、システムの設計者はアホですね。強制的に徴収できるように税方式に変えて消費税を財源にしたほうがいいでしょう。
またお役所仕事はミスが多いので国民が自分の社会保険の状況をチェックできる仕組みが必要です。これに対して著者は、社会保険口座をつくり、預金通帳みたいにいつでもチェックできるようにし、さらに通帳確認を行った人々の中から毎年宝くじが当たるようにすればいいと説きます。1000万円の1等100人に支給しても費用は10億円で、年金特別便の約380億円に比べたら微々たるものです。人間お金がかかっていると真剣になりますから、絶対チェックするようになるでしょう。たとえそれが費用対効果にみあっていない(チェックする労力を省いて遊んだり仕事した方がマシ)としても、大金が手に入るチャンスがあれば人は動きます。ギャンブル依存症の人をみれば、人間にはそうした非合理性があることは一目瞭然です。その非合理性をうまく利用した制度設計を考えつく人はすごいと思います。