考察

哲学者・山脇直司氏への公開書簡――誰が公共哲学をファイナンスするのか

先日「公共哲学とは何か」を批判的に取り上げたところ、著者である山脇氏から「私自身はこの本が貴方の言うように「無害ないいとこどりの本」とは全く思っておりません(中略)現代社会のあり方について激しく論争しましょう。」とのコメントをいただきまし…

いろんな傑作小説を「まどか☆マギカ」でたとえてみる

前回の記事の続編。

「まどか☆マギカ」が終わった今こそ「紫色のクオリア」を読もう

魔法少女ものにしては血なまぐさいなー程度にしか最初は思っていなかったのですが、なかなかどうして傑作ですよ。だいたいこういうバトルものって敵を倒すときに必殺技の名前を叫ぶじゃないですか。この作品の魔法少女もそうした例に漏れなかったわけで「あ…

就活生から見た「好きなことを仕事に」教への違和感――村上龍「新 13歳からのハローワーク」

人間には「好きなことやって野垂れ死にする派」と「あほか! 堅実に安定した生活を送るのが一番だろ派」がいると思う。 「安定した生活が第一派」にしてみたら、とりあえず平均年収1000万以上の大企業に就職することが勝ち組ということになろう。この「安定…

これまでの「ビデオゲーム」の話をしよう

といっても個人史レベルで。 暗黒時代――ピコとの邂逅 小学校低学年のころ、説明できないほどのこのうえない激しさでスーファミが欲しかった。友達の家には当然のようにスーファミがあり、それを借りて遊ぶ「ボンバーマン4」は本当に楽しかった。もしかしたら…

デモクラシーの使用環境――イアン・シャピロ「民主主義理論の現在」がすごくない

1.良いデモクラシーの評価基準 シャピロは民主主義(デモクラシー)の良し悪しを評価する基準として「不当な支配をどれだけか減らせるか」という基準を提示します。ここでいう「不当な支配」とは、自分の意思に反した拘束を強いられる状態です。たとえば、…

誰が得するんだよこの本ランキング・2010

今年もやってまいりました、年間ベストを選出する企画「誰が得するんだよこの本ランキング」です。気持ちとしては「誰が損するんだよこの本ランキング」にしたいところですが、ブログ名との兼ね合いでこのタイトルになっています。実用書と小説それぞれベス…

複数の自己たちのためのリバタリアン・パターナリズム

法は誰かが誰かを拘束するものである。治者と被治者の自同性が認められれば、その拘束には正当性が認められる。この考え方の前提にあるのは「自分のことは自分が一番よく知っており、その自分が決めたルールのなのだから、自分は拘束される」という思想であ…

平岡公彦氏・finalvent氏・とつげき東北氏のニーチェ解釈――永井均「これがニーチェだ」がすごい

平岡公彦氏に紹介された永井均「これがニーチェだ」をようやく読みました。僕の感覚からすると非常にわかりやすかったです。紹介していただいてどうもありがとうございます。僕がどうしても理解できなかったのは「どうしてニーチェは健全だとか健康だとかに…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part3

5.「合理的な非合理性」理論において集計の奇跡がおきない理由 合理的選択理論は、実証的に反例が見つかっている。有権者が利己的に投票するならば、金持ちほど金持ち優遇の政党に投票し、老人ほど老人優遇の政党に投票するはずだ。しかし現実において、金持…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part2

前回のエントリで説明したように日常生活においては明晰な僕たちも、こと投票箱の前ではいかんなく愚民っぷりを発揮する。だが、その愚かさにもかかわらず民主主義は一応機能しているように見える。この理由はなんだろうか。 3.集計の奇跡 そこで思考実験だ…

僕たちは愚民である――ブライアン・カプラン「選挙の経済学」がすごい part1

鳩山政権がほぼ何もしなかったに等しい8カ月を終えた後、管政権になったとたん支持率が急回復して、一体この国の人たちは何を考えているんだと不安になった。経済政策のダメさ加減では鳩山も管もどっこいどっこいなのに、いくら期待をこめての支持とはいえ、…

「初音ミクによる統治」とか言い出すのはデモクラシー原理主義の病

濱野智史が「もう初音ミクが出馬するべきでは」と言っています。言い分はこうです。そもそも民主制(デモクラシー)なんてものは、自分たちのことは自分たちで決めるというだけなんだから、誰か代表を選んでその人に統治を任せるなんていうのはちょっと変だ…

1000の道徳によって分断される人々――グレッグ・イーガン「万物理論」がすごい

個人主義者はよく「みんながバラバラに生きていたら社会が成り立たない」と反論される。同じように自由主義者が「おれっちは勝手にやらせてもらうぜ!」と自己決定ですませようとしても、コミュニタリアンが「ある程度統合された社会がないと人間ダメなんだ…

相対主義で注意すべきたった一つのポイント

たいていの場合、相対主義を議論に持ち込む人は別の何かを絶対視している。たとえば文学の良し悪しについて大学生が延々と居酒屋でだべっていたとしよう。それを見て隣のサラリーマン氏は思うのである。「お前らそんな下らんことで大切な学生時代を無駄にし…

君の頭は19世紀だね

などと冗談で友人に言ったことがある。ニーチェの価値相対主義について議論している際に、彼は「相対主義的に考えることってそんな必要なのか? 政治ゲームの勝者があまり幸福そうに見えない」とニーチェを批判するのだ。価値が相対的なものにすぎないとした…

「なぜ人を殺してはいけないの?」に、ニーチェがマジレスしたら

どうなるんだろう。 というわけで、ニーチェ「善悪の彼岸・道徳の系譜」の解説です。ニーチェは哲学や政治学をやるのなら必読だと思うのですが、いかんせん文学的な表現が多すぎて何を言っているのかよくわかないと投げ出す人もいるんじゃないですかね。とい…

文学「まだだ、まだ終わらんよ」

グレッグ・イーガン「ディアスポラ」のエントリを書き上げた後は素朴にもこう思ったものです。文学終わったな、と。たとえどんなに素晴らしい小説も、人生を変えるような思想も、しょせんは価値基準のメタ構造の階層を一歩昇るだけです。《真理》という名の…

批評の終着点はどこか

批評なんてそろそろ終わらそう。というわけで「小説のレビューがつまらない本当の理由」の続きです。まず作品をレゴ・ブロックに例えます。すると批評の形式はこうなります。

小説のレビューがつまらない本当の理由

ほとんどの書評が文芸批評としては最低レベルの「印象批評」です。だからといって、文学のなんたるかを分かってないから、と言うつもりはありません。問題はその印象批評のテクニックです。

心壊サミットはジャイアンの敗北

誰が得するんだよこの本ランキング・2009

今年読んだ本のベスト10でも紹介しよう。実用書と小説それぞれベスト10を発表するので計20作です。もう確実に人生の友となるような傑作ぞろいでこのエントリを書いている今もわくわく感が再燃してしまいます。とくに今年は国内SFが豊作でしたな。いやあ本当…

小沢一郎「俺のパターナリズムを超えてゆけ」

NHKスペシャル『永田町・権力の攻防』見てからというもの、僕の脳内で小沢フェアが絶賛開催中なので、いろいろ小沢一郎について書く。あのNスペは、政治がどんだけダメだったかという視点から93年以降をとらえているが、そもそも戦後日本に政治の低迷などな…

レイ・カーツワイルの未来予測が凄まじい件

レイ・カーツワイル「ポストヒューマン誕生」という本から「これはすごい」と思った箇所を抜粋します。社会の変革に貢献したのはなによりも一般人の生産性の向上だったとドラッカーは語りましたが、カーツワイルの予想通りに技術が発展するとすれば、21世紀…

他者承認を通貨としてあつかう非モテ

とにかく他者から自分の存在を肯定されたい! という人生は、なんだか息苦しいのではないかと最近感じる。いや、もちろん自分も他者承認に飢えていることはたしかだし、その必要性をないがしろにしたいわけではない。マズローによれば、他者からの愛情・尊敬…

オタクはすでに死んでいるのか

本当にオタクはすでに死んでいるのか、岡田斗司夫「オタクはすでに死んでいる」をもとに考察してみたい。

文学は単なる文化圏にすぎない

文学に限らず芸術というものは、科学ではなく文化です。つまり普遍的なものではなく、ある文化圏内でのみ通用する局所的なものです。ある様式や価値観を信仰する人々の集合が文化ですから、この文化に属さない人にとっては理解できなくて当然です。文学は、…

ドストエフスキー・メソッド 有効性に疑問の声

[スコトプリゴニエフスク 19日 ロイター] 文学史に絶大な影響を残したとされる「カラマーゾフの兄弟」であるが、かねてからその面白さを疑問視する声があった。とくにアンチ古典厨からは「どう見ても過大評価」との批判が相次いでいた。今回改めて当ブログ…

SFファンが意識の謎に答えてみた

意識の謎というものは科学では扱いにくい問題で、クオリアだの仮想だの色々と言われていますが、具体的にはいまだによくわかっていません。でもわからないなりに答えることは可能です。

京極堂の仏教論は正しいのか?

禅に関する講釈は、下記のサイトでかなり批判されています。 http://www15.ocn.ne.jp/~satori/karakuchi/kara_004.html 要約すると以下の2点です。 京極堂が悟っていないため、悟りへの理解が無茶苦茶 特に十牛図に関する説明がダメ 2点目に関しては筆者自身…