誰が得するんだよこの本ランキング・2009

今年読んだ本のベスト10でも紹介しよう。実用書と小説それぞれベスト10を発表するので計20作です。もう確実に人生の友となるような傑作ぞろいでこのエントリを書いている今もわくわく感が再燃してしまいます。とくに今年は国内SFが豊作でしたな。いやあ本当に本っていいもんですね。*1


実用書 第10位 マイケル・ルイス「マネーボール」

少ない投資のわりに異常なほど好成績をたたきだす野球チームのノンフィクション。莫大な金を使っているのに結果はさっぱりっていう状況はよくありますよね。世の中には、そうした状況にたいして「けしからん」と思う人と「これはチャンスだ」と思う人、2通りいると思うんですよ。なんでチャンスになるかっていうと、コストパフォーマンスの低い戦略にこだわっているところがあれば、自分がコストパフォーマンスのいい戦略で勝負して、そいつらを出し抜いてやればいいからです。なにか問題が起きるとそれを悲劇として嘆くのはマスメディアのよくやるパターンですが、それも一種のビジネスチャンスだと思えば全然余裕です。

実用書 第9位 ブライアン・カプラン「選挙の経済学 投票者はなぜ愚策を選ぶのか」

経済リテラシー足りないやつ多すぎて民主制やってみたらバカな政策ばかり通るでござる の巻。結論だけから言えば衆愚政治ってことなんだけど、データが豊富で説得力抜群。けど読みづらい。



実用書 第8位  スティーヴン・J・グールド「人間の測りまちがい」

9,10位でデータに基づいた良書を紹介したけど、これはそのデータがいかに恣意的に使われてきたかを暴露する本。データから結論を導いていると見せかけて、もともと持っている結論にふさわしいデータを後付けで探す例のいかに多いことか。大著なので時間がある方にオススメ。



実用書 第7位 山下一仁「農協の大罪」

全体にとっては不合理なことでも自分たちに都合のいい政策をごり押しするのが利益団体ですが、この点にかけては農協は日本最強なんじゃないかと思います。もはや兼業農家は特権階級です。どうせ既得権益を攻撃する新自由主義の本でしょ? とこの手の本を敬遠する人にもオススメ。



実用書 第6位 高橋洋一「さらば財務省!」

小泉改革の舞台裏。脱官僚とか語るなら必読でしょう。読み物としても非常に面白い。





実用書 第5位 ナシーム・ニコラス・タレブ「まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」

私は○○で成功した!系の話は全部運のみですからスルーしていいよ、ということを理解できた。





実用書 第4位 鈴木亘「だまされないための年金・医療・介護入門」

高齢化で労働人口が減っていくということがどれだけヤバイか実感できる。低福祉低負担か高福祉高負担かなんて選択は幻想で、もう若者には低福祉高負担しか残されてないよということがさらっと書いてある。まあその低福祉を中福祉ぐらいにまで持ってくために社会保障制度の改革は必要なんだけど、焼け石に水だよなあ。ともかく必読。



実用書 第3位 ミルトン・フリードマン「資本主義と自由」

格差とか福祉とかの議論になると、たいていこの人が悪の親玉として叩かれるわけですが、実際は負の所得税といったベーシックインカムにもつながる政策を推奨しています。自由主義が嫌いな人はこの本を読むと驚くんじゃないだろうか。




実用書 第2位 森村進「自由はどこまで可能か―リバタリアニズム入門」

政治思想とかこの一冊で十分じゃね? というくらい参考になる。






実用書 第1位 レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」

いきなりタイトルが胡散臭くなってしまいました。が、かなりマジメに人生の糧にしている本です。先進国が抱えている問題は高齢化で労働人口減っているのに国内の既得権益層が強すぎて自由主義的な政策をとれないってことにあります。これに対して規制緩和だ!経済成長だ!と真っ向勝負する方向性もあるのですが、僕は自由主義が勝つことには悲観的です(「選挙の経済学」参照)。だから一人当たりの生産性を上げるとか知識労働可能なロボットを創って労働人口を増やすといった方向性のほうがまだ勝算あると思うんです。まあ実際にどちらの道が当たるかはそれこそ「まぐれ」なのですが、どうせなら自分の好きな方向性に人生賭けます。ポストモダンとかもう古い! 時代はポストヒューマン!





小説 第10位 「サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ」

飛浩隆の短編が好きすぎるし、科学者の話も夢がありすぎる。





小説 第9位 京極夏彦「絡新婦の理」

これは個人的に好きなのでオススメする理由がとくに思い浮かばないんですけどランクイン。





小説 第8位 筒井康隆「文学部唯野教授」

最強の教養小説





小説 第7位 田中ロミオ「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜

メタ中二病小説の極北。





小説 第6位 神林長平「膚の下」

今年一番泣いた本。鼻水が出るほど泣いたのはこの作品だけだったなあ。しかし今もってなぜそこまで感動したかを説明することはできない。人によっては全く面白くないのかもしれない。





小説 第5位 グレッグ・イーガン「宇宙消失」

量子力学SFでは当分これを超える本は出てこないんじゃないか。ただ読みづらいのでこの位置に。





小説 第4位 飛浩隆「ラギッド・ガール 廃園の天使II」

独特の感性があるんだけどそれが鼻につかない、むしろするりするりと飲み込めてしまう、そんな短編集。SFネタもやっぱり好き。




小説 第3位 長谷敏司「あなたのための物語」

僕の周りではそこまで評価高くないのだけど、これは名作だと思う。死を題材にした文学の系譜の最先端。レイ・カーツワイルが描く未来像に照らすと一番リアリティを感じた。




小説 第2位 町田康「パンク侍、斬られて候」

非SFのエンタメでは歴代TOP5に入るくらい好き。面白い文章の大群に圧倒される。






小説 第1位 伊藤計劃「ハーモニー」

この「ハーモニー」の世界観を許容するかしないかというのはこの1年ずっと考えさせられた。小説としての出来は1〜8位までどれも同率1位にしてもいいくらいなんだけど、問いかけの大きさという点でやはりこの「ハーモニー」が心に残るんだよなあ。

*1:2009年以前に読んだ本でも2009年にエントリをあげた本も含めたランキングです。