レイ・カーツワイルの未来予測が凄まじい件

レイ・カーツワイル「ポストヒューマン誕生」という本から「これはすごい」と思った箇所を抜粋します。社会の変革に貢献したのはなによりも一般人の生産性の向上だったとドラッカーは語りましたが、カーツワイルの予想通りに技術が発展するとすれば、21世紀は爆発的な生産性の向上を通して社会が後戻りできないほどに変容する時代ということになるでしょう。


ナノテクと脳科学とAI

革命はすでに始まっています。コンピュータの高性能化・低コスト化により、今までは難しかったことが簡単にできるようになります。たとえば、人間の脳内の活動をそっくりそのままコンピュータでシミュレートすることも可能になります。

モラヴェックの分析によれば、網膜は、輪郭と動きの検出を毎秒1000万回も行う。ロボットの視覚系の開発に何十年も費やしてきた経験から、モラヴェックは、これらの検出動作の一回分を人間のレベルで再現するには、約100回のコンピュータ命令が実行される必要があると試算した。つまり、網膜のこの部分の画像処理機能を模倣するには、10MIPSが必要なのだ。網膜のこの部分にあるニューロンの重さの0.02グラムと比べて、人間の脳はおよそ7万5000倍も重い、したがって、脳全体のコンピュータ命令は毎秒約1014(100兆回)と推定される。(中略)脳の全ての領域に相当するものを実現するには1014cpsから1016cpsでおそらくは十分だろう。(中略)現在のパソコンの性能は、109cpsを超えている。(中略)2025年には1016cpsを達成するだろう。


脳科学そのものも進歩が著しい分野です。現状では倫理的な問題もあり、なかなかそのメカニズムがつかめていない脳ですが、スキャン技術の発展により、正確なデータが得られるようになります。

ニューロンニューロンのサブシステムの動きは、しばしば、あまりのも複雑で、そこには多くの非線形性が見受けられるが、神経の集合体やニューロンの集合領域の働きは、構成部分の働きよりも単純であることが多い。われわれがもつ数学的なツールはますます強力になり、効率の高いコンピュータ・ソフトウェアで実行されている。そうしたツールは、脳のように複雑に階層化され、適応性があり、半ランダムで、自己組織化を行い、非線形性の度合いの高い種類のシステムを、正確にモデル化することができる。これまでに、脳のいくつかの重要な領域を効果的にモデル化できたことから、この取り組み方の有効性が証明されている。


出現しつつある新世代のスキャン装置では、ここの樹状突起やスパイン、シナプスの動きがリアルタイムで観察できるほどの空間時間的解像度が初めて実現されるだろう。これらのツールからはすぐにも、さらに解像度の高い次世代のモデルやシミュレーションが誕生するだろう。


2020年代にナノボットの時代が到来すれば、神経活動の重要な特徴をひとつ残らず、脳の内側から、ひじょうに高い解像度で観察することができるようになる。脳の毛細血管に何十億個ものナノボットを送り込めば、脳の働きの全てを、非侵襲的にリアルタイムでスキャンすることができる。もうすでに、今日の比較的未熟なツールを用いて、脳の広範囲にわたる領域の効果的な(まだ不完全ではあるが)モデルが作られている。これから20年以内に、コンピューティング能力は少なくとも100万倍は向上し、スキャンの解像度と帯域幅は大幅に改善されているはずだ。したがって、2020年代までには、脳全体をモデル化しシミュレートするのに必要な、データ収集とコンピューティングのツールを手にしているはずだ、と断言できる。それを用いれば、人間の知能の作用原理と、この他のAIの研究によって実現されている情報処理の知的形態とを組み合わせることが可能になる。さらに、大量の情報を保存し、引き出し、即時に共有するという、機械にもともと備わっている長所が利用できるようになる。そうなれば、人間の脳という比較的固定されたアーキテクチャのもつ能力をはるかに超えたコンピューティングの基盤的環境において、これらの強力な混合システムを実行することのできる地点に到達できるはずだ。

人間の脳がモデル化されたら、人間と同じ認知を行うロボットも完成します。現状のロボットの最大の問題ともいえるフレーム問題(ロボットと人間の認知が一致せず、人間にできる簡単なことでさえロボットにはできないこと)が解決されるでしょう。すると介護ロボットなど、日常生活で人間の代わりに働いてくれるロボットも実用化します。さらに、機械と人間の認知構造が一致すれば、機械と人間の本質的な違いはなくなります。どちらも同じように情報を処理するので、機械と人間のリンクがさらに増すでしょう。いちいちブラウザを通してグーグルで検索しなくても、脳とネットが直結したら、思考と情報収集を同時並行的に行えます。超人的な記憶力・情報処理能力が当たり前のものになります。


1000年ぐらい生きる

知性だけでなく、健康面でもはかりしれない進歩があります。

ナノ医療が介入すると、最終的にはあらゆる生物学的老化を継続的に止めるだけでなく、現在の生物学的年齢から本人が希望する年齢へと若返れるようになる。つまり暦上の年齢と生物学的な健康状態とのつながりが永遠に断ちきられるのだ。このような介入は、あと数十年もたてばあたりまえになるだろう。毎年、健康診断と体内洗浄を受け、必要に応じておおがかりな修復を行えば、そのつど、生物学的な年齢を自分が選んだ生理学的な年齢に近づけることができる。結局は思いがけない理由で死んでしまうかもしれないが、少なくとも今の10倍は長生きできるようになるだろう。
ロバート・A・フレイタス・ジュニア

まあ、こうしたナノ医療はまだ実現していないので、寿命が10倍になるなんて夢物語にすぎないという批判はあるでしょう。しかし、ナノ医療は早ければ2040年代に実現するので、それまでとりあえず生きてればいいのです。また寿命が10倍になれば、さらに未来ののテクノロジーの恩恵を受けられますから、そのうち不死さえも目にすることになるかもしれません。

われわれは現在、永遠と言えるほど長く生きる手段を手に入れた。現在ある知識を積極的に用いれば、老化の過程を格段に遅らせることができ、バイオテクノロジーナノテクノロジーによるさらに抜本的な延命治療が可能になるまで、元気な状態を保つことができる。(中略)われわれは、テクノロジーの加速がもたらす多大な力を利用できる。中でも注目すべき例は「橋を足場にして橋を架け、さらにそれを土台として橋を渡す」(今日の知識をバイオテクノロジーへの架け橋とし、次にそのバイオテクノロジーの知識をナノテク時代への架け橋にする)方式により、寿命を劇的に伸ばすことだ。これにより、劇的な延命に必要な全知識はまだ揃っていないにもかかわらず、無限に生きる道が今開かれることになる。言い換えれば、今日全ての問題を解決しなくてもよいのだ。5年か10年、あるいは20年の間に入手できる技術力を想定し、それらを計画に組み入れることが可能だ。

いやー。僕たちは本当に面白い時代を生きているんですね。日々のニュースを追いかけていると、社会保険の破綻とか日本没落とか暗い未来像しかないように思われてきますが、まったくそんなことはないのです。毎年3万人も自殺している社会にいるとなんとなく悲観的になってしまうのもわかります。ですが、永遠に生きる可能性を考えれば、たかが数十年の生活体験だけで人生否定しちゃうなんてできないのです。人生のダークサイドを覗き込んで鬱々としているよりも、テクノロジーとそれが可能にする富に賭けてみるほうが楽しいんじゃないでしょうか。さあ、というわけで、素朴な科学万能主義は近代とともに葬り去られたなんて偉そうに語る批評家どもを無視して、いまこそ科学万能主義を宣言しよう!


余談

法体系の実際の変更は、法律制定よりもむしろ訴訟によってもたらされることになるだろう。訴訟が多くの場合、突如、法体系の変化を引き起こすのである。将来の先行事例と目されるのが、2003年9月16日に、マータイン・ロスブラット弁護士(マーン、パツスキー、ロスブラット&フィッシャー法律事務所パートナー)が、あるコンピュータの依頼に基づいて行った模擬裁判の申し立てだ。それは、ある企業に同社所有の「意識のある」コンピュータの電源を切らないよう求めたもので、国際法曹連盟の会議のバイオサイバー倫理部会で開かれた模擬法廷で審理が行われた。

シュールな設定のSFかと思いましたが本当にこんなのあるんですね。法曹をめざしているので興味深い。