オススメ

自由からの逃走 / エーリッヒ・フロム

フロムによれば、近代人は自由になったが孤独になった。この孤独から逃れるために近代人は「個人的自己からのがれること、自分自身を失うこと、いいかえれば、自由の重荷からのがれること」*1 を望んだ。これが全体主義の起源であった。しかし、ここで問われ…

名探偵の掟 / 東野圭吾

東野圭吾でこれがオススメとかどういうことだよ、と言われそうなんですが、僕にとっては誰が何と言おうとこれなのです。主人公である探偵役はこれがミステリ小説であることに自覚的なので、ミステリでよくある設定(密室、アリバイ、無駄に凝ったトリック)…

旅のラゴス / 筒井康隆

ドラクエ3の職業「遊び人」はまったく使えない。戦闘中ですら遊んでやがる。しかしそんな遊び人も苦労してレベル20まで育てれば最強の職業・賢者へと転職することが可能なのだ。遊びも極めれば悟りにいたるという、わけのわからない仕様であった。しかし、本…

新世界より / 貴志祐介

「ハリー・ポッター」のように魔法が使える世界というだけでげんなりする人もいるだろう。しかしこの作品は、そうしたファンタジーの王道に飽き飽きしている人にもオススメしたい最高に読ませるエンタメなのです。魔法が使えるといっても、耐久力は生身の人…

政局から政策へ / 飯尾潤

入学祝に親戚の伯母から宝くじを3000円分もらったことがある。当時の私は「よりにもよって宝くじか」と落胆したものだ。宝くじは手数料率50%超というほとんど金融詐欺みたいな商品だからだ。1000円賭けた瞬間に胴元に500円分徴収され、参加者は残りの500円…

国家の罠 / 佐藤優

ここにニッポン株式会社がある。会社の持ち主(株主)は《国民》であり、彼らの代表として株主総会で議決権を行使する《政治家》がいる。会社の従業員は《公務員》であり、《政治家》が株主総会で決めたことにそって会社を運営している。会社の目的は、「国…

農協の大罪 / 山下一仁

全体にとって最悪な政策を自分の都合だけでごり押しできる力―――これを政治力と定義するならば、日本最強の政治団体は間違いなく農家である。農家のおかげで日本の農政は矛盾だらけのひどいものになっている。たとえば農家を保護する理由として、食料安全保障…

マネーボール / マイケル・ルイス

少ない投資のわりに異常なほど好成績をたたきだす野球チームのノンフィクション。莫大な金を使っているのに結果はさっぱりっていう状況はよくありますよね。世の中には、そうした状況にたいして「けしからん」と思う人と「これはチャンスだ」と思う人、2通り…

1000の道徳によって分断される人々――グレッグ・イーガン「万物理論」がすごい

個人主義者はよく「みんながバラバラに生きていたら社会が成り立たない」と反論される。同じように自由主義者が「おれっちは勝手にやらせてもらうぜ!」と自己決定ですませようとしても、コミュニタリアンが「ある程度統合された社会がないと人間ダメなんだ…

口コミ伝染病 / 神田昌典

昔バイト先のITベンチャーの社長から紹介された本。その人自身、ものすごく仕事ができる人なのでこの本も期待して読みました。いや、想像以上に面白い本です。単なるマーケティング上のテクニックにとどまらない、ビジネスの基本的な部分を押さえています。…

自由はどこまで可能か / 森村進

「なぜ人を殺してはいけないの?」に、ニーチェがマジレスしたら、「それもまた君の信仰にすぎない」とあっさり返すだけだろう。しかし、だからといって現代思想にふれた者すべてが「人を殺すな」という道徳律をなかったことにし、モヒカンがバイクで世紀末…

半島を出よ / 村上龍

名作。基本的に村上龍の小説は没交渉な性格の人間に居心地いいように作られています。要するに「普通」とか「一般」から浮いたアウトサイダーやマイノリティに向けて書かれた小説なので、そういったある種の痛々しさ・普通にするすると生きていけない不器用…

資本主義と自由 / ミルトン・フリードマン

貧困とか格差について語るならせめて読んでおいてほしい名著。そもそもメディアでは貧困問題と格差問題を区別せずにいっしょくたに議論されているが、この両者は全く別物だ。前者は「絶対的貧困があり、それをセーフティネットによって拾い上げよう」という…

アル・カーイダと西欧 / ジョン・グレイ

イスラム過激派や西欧文明について語られた本の中でもっとも面白い。グレイは「アル・カーイダを中世への先祖返りだとする主張ほど仰天させられるものもない」*1 と言ってみせる。話は逆で、アル・カーイダはまったく近代的なのだ。では近代(モダン)とはな…

貧困のない世界を創る / ムハマド・ユヌス

「世界があとほんの少しでもよくなればいいのに」と願う全ての人が読むべき。善意だけで人を助けることはできないけど、善意と冴えたやり方が組み合わされば世界は変わる。そう、ユヌスは身体を張って証明してくれる。 経済学博士であり、バングラデシュの大…

アイの物語 / 山本弘

これは物語が、自らの尊さを雄弁に物語る、物語だ。Book Talk Cafe 第1回(スゴ本オフ)に参加したら、dankogaiさんに「アイの物語」をもらいました。氏のレビューは実は前に読んでいたこともあり、ちょうど読みたかった本がもらえるなんてラッキー程度に思…

クォンタム・ファミリーズ / 東浩紀

東浩紀を読むのははじめてだが思わず徹夜で読んでしまった。「尊厳と無縁のカスきわまりない生を、いかにして生きればいいのか」という作中の問いはなかなか心にくる。ちょうど僕自身が就活をひかえた大学3年生という、社会への憂鬱を澱のようにためこむ時期…

脳のなかの倫理 / マイケル・ガザニガ

どこからどこまでが倫理的に悪いのかという問いには伝統的に哲学畑の頭でっかちが答えてきたんだけど、ようやく文学的な韜晦の肥溜めのようなその倫理学に、科学の光が差し込んできた。という話ではない。逆に脳科学の進歩に既存の倫理学がまったく追いつい…

ディアスポラ / グレッグ・イーガン

文学というメタゲームへの最終兵器にして史上最も難解なSF。あるいは「火の鳥 ハードSF篇」。グレッグ・イーガンは多分この作品で文学を終わらそうとしている。「批評の終着点はどこか」では批評のメタ構造ゆえに、究極の文学・究極の批評などありえないこと…

誰が得するんだよこの本ランキング・2009

今年読んだ本のベスト10でも紹介しよう。実用書と小説それぞれベスト10を発表するので計20作です。もう確実に人生の友となるような傑作ぞろいでこのエントリを書いている今もわくわく感が再燃してしまいます。とくに今年は国内SFが豊作でしたな。いやあ本当…

今昔続百鬼 雲 〈多々良先生行状記〉 / 京極夏彦

これ本当に楽しいんですよ。毎回ストーリー展開は一緒なんですが、落ちが見えていても面白い。ともすればマンネリ感を与えがちな構成も、京極夏彦の手にかかればこうも居心地のよい小説世界になるのですね。ぜひともまた多々良先生を使った短編を書いていた…

ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき / レイ・カーツワイル

100兆のニューロン間結合と神経伝達物質の濃度。これが、あなただ。あなたが見ている世界も、聞こえる音も、内なる思考も、すべてこの脳細胞の中にしかない。だけどこの脳細胞はあなたの一部ではあっても、あなたの本質ではない。あなたの意識が宿るその脳細…

あなたのための物語 / 長谷敏司

心を根こそぎ奪われた。すごいよ。すごすぎるよ。グレッグ・イーガン「順列都市」に匹敵する面白さ。テッド・チャンも納得の一冊のはず。もうとりあえず読んでくれ。こういう作品が出てくるからSFはやめられない。脳のニューロンの状態を記述できる言語がで…

経済成長って何で必要なんだろう? / 飯田泰之

経済学者といわゆる「論壇」の人との対談ということでとても面白かった。格差問題や貧困問題に対して経済学はどう答えるのか、また経済学以外の社会科学・人文科学はどんな問題設定をするのか、という話です。まあ簡単にいうと格差や貧困をなくすには 1.誰…

膚の下 / 神林長平

号泣した。まさかここまでとは。「あなたの魂に安らぎあれ」、「帝王の殻」に続く、三部作の最終章。正直言ってなにが面白いのか説明できる自信がまったくない。けど、たぶんこれは神林長平の最高傑作だと思う。「あなたの魂に安らぎあれ」でも感じた、なに…

AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜 / 田中ロミオ

中二病(邪気眼)のヒロインと高校デビューで脱オタをはかった主人公のドタバタ。白岩玄「野ブタ。をプロデュース」と滝本竜彦「NHKにようこそ!」と綿矢りさ「蹴りたい背中」を5:3:2ぐらいでブレンドしたみたいな内容です。「野ブタ。をプロデュース」はエ…

ラギッド・ガール 廃園の天使II / 飛浩隆

読み終わるのがもったいないほど素晴らしかった。もしこの本を読んでる瞬間を永遠に引き伸ばすことができるとしたら「ハイよろこんで!」と即答してしまいかねない。それほどの傑作。飛浩隆が持つ、生と死への感性は常軌を逸しているなあ。仮想現実や人工生…

絡新婦の理 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第5作目。まあ恒例のごとく連続殺人事件がおきて、いろいろ民俗学ネタをからめつつ解決するよ! という話。今回は美人四姉妹というなにやら読者受けを狙った設定があり、さすがに前作の坊さんだらけの男臭い舞台が評判悪かった、ということな…

魍魎の匣 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第2作目。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物――箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶという話。前作よりもボリュームがあり、エンタメとして文句無し。ただ序盤が少し冗長だったのが残念…

姑獲鳥の夏 / 京極夏彦

京極堂シリーズ第1作目。古今東西のミステリの中で京極堂シリーズは桁外れに面白い。その1作目である本書は最もコンパクトにまとまっており、一番オススメです。「妖怪小説」といえるほど作品の中で妖怪が重要な位置を占めており、この妖怪に関する薀蓄が素…