アイの物語 / 山本弘

これは物語が、自らの尊さを雄弁に物語る、物語だ。Book Talk Cafe 第1回(スゴ本オフ)に参加したら、dankogaiさんに「アイの物語」をもらいました。氏のレビューは実は前に読んでいたこともあり、ちょうど読みたかった本がもらえるなんてラッキー程度に思っていましたが、これは、やはり、スゴ本です。SFとしては神林長平「膚の下」飛浩隆「ラギッド・ガール 廃園の天使II」あたりが近いかな。
しょせんSFなんてオタクの現実逃避だ夢物語だなんて言われますが、この本はそうしたフィクション批判を自己言及的に取り込んでる。「現実逃避? そんなに現実って素晴らしいのか?」とフィクションそのものが反論してくるのだ。まるで本そのものと対話しているような感覚になるんですよ。そしてその対話の中で「たかがフィクション」だったのが「ああ、やっぱりフィクションっていいなあ」と徐々に切り替わっていく。またこのリアルとフィクションの対話が、人類と人工知能の対話にもなっているところが感動的だ。これは、人間の醜さを乗り越える美しい物語という古典的なテーマでもありながら、人類の次を指し示すという未来的なテーマでもあるのだ。やっぱりSFはいいなあ。