SF

虚構機関

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アンソロジー。伊藤計劃「The Indifference Engine」がずば抜けて面白かった。民族紛争後、「自分の部族と他の部族の見分けがつかなくなる」脳神経的処置を受けた少年兵の話。近代合理主義の立場から戦争の原因を分析すると、部族の違いから来る差別の歴史と…

新世界より / 貴志祐介

「ハリー・ポッター」のように魔法が使える世界というだけでげんなりする人もいるだろう。しかしこの作品は、そうしたファンタジーの王道に飽き飽きしている人にもオススメしたい最高に読ませるエンタメなのです。魔法が使えるといっても、耐久力は生身の人…

ふたご / 吉村達也

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角川ホラー文庫が創刊された当時は、鈴木光司「らせん」、瀬名秀明「パラサイト・イブ」、梅原克文「二重螺旋の悪魔」といったバイオホラーの傑作が目白押しで、さながら角川バイオホラー文庫といった様相を呈していました。本書もその流れに乗って、クロー…

人類は衰退しました 5 / 田中ロミオ

このシリーズは3巻が一番好きなんですが、5巻の前篇はそれにつぐ面白さ。主人公のシリアスな過去が明らかにされます。周りに溶け込まない孤高主人公が徐々に打ち解けていくという、学園ものではおなじみのパターンですが、これがまたいいんですよ。「AURA」…

人類は衰退しました 4 / 田中ロミオ

シリーズもの最大の弊害「中だるみ」が顔を出しております。非日常とみせかけた、ドラえもん的な日常がだらだらと続く感じ。1巻の焼き直しみたいな印象です。

人類は衰退しました 3 / 田中ロミオ

遺跡探検もの。ロストテクノロジーに翻弄される冒険とかたまりませんね。いい年こいた大人が現代の電化製品を過去の栄光の象徴として祭り上げるところなんかも、ノスタルジックな感傷とともに爆笑できる名シーンです。新キャラも出てきて世界観がいい感じに…

人類は衰退しました 2 / 田中ロミオ

体が小さくなって大冒険という懐かしのあのパターンなわけですが、いやあすごいなあ。パロディの嵐で笑えますし、知性の大小によって世界認識が変化するくだりなんかは感動的な面白さです。ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」ほど泣かせはしません…

人類は衰退しました / 田中ロミオ

森絵都のほのぼのとした脱力感と、ラファティのくだらなさと、ヴォネガットのシニカルな諧謔を怒涛のゆるさで希釈して、児童文学チックにまとめてみましたよって感じ。文明が衰退し、ゆるやかな余生を楽しむご隠居のような人類に代わって万物の霊長となった…

航路 / コニー・ウィリス

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臨死体験を科学的に解明するものとしては瀬名秀明「BRAIN VALLEY」があるけど、それを宮部みゆきが書いたらおそらくこんな冗長な、ではなく、えー、重厚な、そう、重厚な物語になったはずだ。そしてこの書き出しからもわかるとおり、残念ながらあまり好きに…

1000の道徳によって分断される人々――グレッグ・イーガン「万物理論」がすごい

個人主義者はよく「みんながバラバラに生きていたら社会が成り立たない」と反論される。同じように自由主義者が「おれっちは勝手にやらせてもらうぜ!」と自己決定ですませようとしても、コミュニタリアンが「ある程度統合された社会がないと人間ダメなんだ…

神林長平トリビュート

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タイトルそのままのアンソロジーなんですが、やっぱり円城塔のが圧倒的に面白い。なにかというと「死がはじめて公式に観測された」世界の話です。手塚治虫の「ブッダ」には、魂のプールみたいなのが出てくるじゃないですか。そのプールから下界へと派遣され…

ベトナム観光公社 / 筒井康隆

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初期の筒井康隆なんてラノベみたいなもんだと言われるたびに、僕なんかはちょっと待ってくれよ、と思うのですが、この作品はまさにラノベだと認めざるをえない。

後藤さんのこと / 円城塔

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もうやめて円城塔! 解読班のライフはゼロよ! と全国10万人の円城党員が悲鳴を上げたに違いない。あ、円城党って言葉いま作りました。ほら、新党ブームだしね。まあ、それはどうでもいいんだけど、とにかく今回は読むのがかったるかった。「SRE」と比べても…

アイの物語 / 山本弘

これは物語が、自らの尊さを雄弁に物語る、物語だ。Book Talk Cafe 第1回(スゴ本オフ)に参加したら、dankogaiさんに「アイの物語」をもらいました。氏のレビューは実は前に読んでいたこともあり、ちょうど読みたかった本がもらえるなんてラッキー程度に思…

クォンタム・ファミリーズ / 東浩紀

東浩紀を読むのははじめてだが思わず徹夜で読んでしまった。「尊厳と無縁のカスきわまりない生を、いかにして生きればいいのか」という作中の問いはなかなか心にくる。ちょうど僕自身が就活をひかえた大学3年生という、社会への憂鬱を澱のようにためこむ時期…

時間衝突 / バリントン・J・ベイリー

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ベイリーと小林泰三は似ているなと思うんですよ。アイディアの馬鹿さ加減と、スピード感のある展開がどちらも売りで、こういう作家は本当に大好きです。本書は時間軸そのものが衝突するという、え、それどういうこと? という作品で、まあ言ってみれば出落ち…

ディアスポラ / グレッグ・イーガン

文学というメタゲームへの最終兵器にして史上最も難解なSF。あるいは「火の鳥 ハードSF篇」。グレッグ・イーガンは多分この作品で文学を終わらそうとしている。「批評の終着点はどこか」では批評のメタ構造ゆえに、究極の文学・究極の批評などありえないこと…

アルファルファ作戦 / 筒井康隆

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死を肯定できるかもしれない・「あなたのための物語」再考

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「あなたのための物語」は2009年はこれを超える作品は出ないんじゃないかと絶賛されている(主に僕によって)小説です。興味深い感想があったのでちょっとコメントしてみたい。もちろんネタバレです。

超弦領域

SF

うわあ。なんだこの愛すべきバカSFたちは。これほど読んでいてニヤニヤ笑いが止まらなかった作品は久しぶりだ。現代SFの最先端と呼ぶにはちょっとSFなのかよくわからない枠が多い気もするけど、まあよろしい。以下できるだけネタバレせずに寸評(ネタバレ部…

あなたのための物語 / 長谷敏司

心を根こそぎ奪われた。すごいよ。すごすぎるよ。グレッグ・イーガン「順列都市」に匹敵する面白さ。テッド・チャンも納得の一冊のはず。もうとりあえず読んでくれ。こういう作品が出てくるからSFはやめられない。脳のニューロンの状態を記述できる言語がで…

原始人 / 筒井康隆

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「こら。読みさらせこの脳なしの能なしの悩なしめ。手前だ。ふらふらと視線さまよわせ気軽、心安らか、自らは何ひとつ傷つかず読める小説がないかときょとつく手前のことだ。できるだけ自分の理解できる範囲内のことしか書かれていず肥大したおのれが自我に…

オブ・ザ・ベースボール / 円城塔

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2次元の世界に生きている人がいるとする。いや、「ラブプラス最高! もう3次元に用はない!」とかそういう話じゃなくて、純粋に平面上に生きている生物を想像してみてほしい。水面を移動するアメンボのような存在だ。そうした人は3次元をどのように知覚する…

我語りて世界あり / 神林長平

SF

共感能力が極限まで高まり自己と他者の境界が消えた世界。3人の人間と謎の知性「わたし」の自分探しが始まる! 伊藤計劃「ハーモニー」とテーマ的に近いかもしれない。アイディア的に面白いんですが、世界設定があいまいでよくわからん話になっています。ル…

紫色のクオリア / うえお久光

SFに興味あるけどラノベが主食でどうもハヤカワは近寄りがたい……、そんな方は是非ともこの1冊を読んでほしい。めちゃくちゃ読みやすく、それでいてSFの魂が宿った正真正銘の本物でした。果てしなく遠いところへ来てしまった、というあの感動が待っています。…

シャングリ・ラ / 池上永一

SF

あほ過ぎワラタwww って感じです。いや本当に。ツッコミどころ満載というか、むしろツッコミどころしかないというストーリーで、「風の谷のナウシカ」型SF@地球温暖化後の近未来 だと思っていたら、ドラクエになりやがった。なんだよ武器がブーメランっ…

膚の下 / 神林長平

号泣した。まさかここまでとは。「あなたの魂に安らぎあれ」、「帝王の殻」に続く、三部作の最終章。正直言ってなにが面白いのか説明できる自信がまったくない。けど、たぶんこれは神林長平の最高傑作だと思う。「あなたの魂に安らぎあれ」でも感じた、なに…

帝王の殻 / 神林長平

SF

神林長平「あなたの魂に安らぎあれ」の続編。突然ですが、忙しい時に自分を分割したくなりませんか? おれAにレポートを書かせ、おれBにゲームをやらせる、とかできたらいいですよね。しかし、どっちがゲームをやるかで揉めそうですね。どっちも自分こそは自…

第六大陸 / 小川一水

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いいなあ。こういうプロジェクトX。月を開拓するというただそれだけの内容なのに、そのプロセスのひとつひとつがこんなにもおれをワクワクさせる。とくに前半の展開が好きです。雲を掴むような夢物語が急速に現実のものへとなっていくときのあの感じがたまら…

臓物大展覧会 / 小林泰三

SF

小林泰三先生が筆の勢いにまかせてB級ホラーを書きなぐったようです。というのがSFファンから見た、本書の評価かな。SF作家としての小林泰三は大好きだけど、ホラーはそこまで好物じゃないのでホラー作家としての小林泰三は微妙なのだ。氏からSF成分を取り除…