SF

自然現象としての言語・自然現象としての物書き――円城塔「Boy’s Surface」がすごい

先の芥川賞でこれを評価するのしないので意見が真っ二つに割れたのは、円城塔「これはペンです」でした。 文壇はいまや円城党と反円城党の二大政党制に移行しているといっても過言ではないでしょう。*1 なぜ円城塔はそこまで受け入れがたいのでしょうか。あ…

虚数 / スタニスワフ・レム

架空の書物の序文ばかりを集めた作品。しかもその架空の書物は、将来刊行されるであろうとレムが予想するもので、つまりこの作品は序文という形を取った壮大な未来予測でもあります。色々な作品が紹介されているのですが、共通しているのは「自然現象として…

結晶銀河

SF

最近の国産SFはすごい。そう思わせるアンソロジー。読書会の課題本にしました。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは長谷敏司「allo, toi, toi」(38/40)。満点をつけた人が2人もいました。児童性的虐待者のお…

NOVA 4

SF

先日の読書会の課題本にしました。このシリーズでは一番つまらなかったかな。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは山田正紀「バットランド」(35/40)、構成とモチーフの関連がすばらしいとの評価を受けました…

Steins;Gate

SF

地震が来るたびに「それが大地の選択か……」とつぶやいてしまう厨二病にはもってこいのノベルゲーム、それがシュタゲ。タイムマシンを使って困難を乗り越えるというのは、ハインライン「夏への扉」をはじめ、SFではポピュラーですが、とくに最近は、何度も過…

銀河ヒッチハイク・ガイド / ダグラス・アダムス

SF

円城塔っぽいなと思った。地球が銀河のバイパス建設のために撤去、というよりも破壊され、ひとり生き残った地球人が星間をヒッチハイクするはめになるわけですが、脈絡のないエピソードにあふれていて、本筋と呼べるものがない。諧謔しかないのです。まあ、3…

異星人の郷 / マイクル・フリン

SF

現代の統計歴史学者が中世ドイツの滅びた村を調べているうちに、異星人とのファーストコンタクトの史実を発見するという話。紙幅の大部分が、中世の神父と異星人クレンク人との交流で占められており、カルチャーショックがすごいです。 なにせこの神父ときた…

薬菜飯店 / 筒井康隆

SF

筒井康隆の中期の短編集。表題作はJOJOのトニオさんのスタンドの元ネタにもなったもので読んでいて楽しい。諸子百家をモチーフにした「法子と雲海」、ノスタルジックなタイムスリップもの「秒読み」、幻想的な雰囲気が癖になる「ヨッパ谷への降下」などが好…

NOVA 3

SF

「NOVA 1」のようなジャンルSF中心のアンソロジー。読書会の課題本に選んでよかったです。傑作。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは長谷敏司「東山屋敷の人々」(32/40)。不老不死のテクノロジーによって家…

伊藤計劃記録 / 伊藤計劃

伊藤計劃成分が足りなくて困っている、そんなあなたにぴったりの短編+エッセイ集。民族紛争後、「自分の部族と他の部族の見分けがつかなくなる」脳神経的処置を受けた少年兵の話(「The Indifference Engine」)は圧倒的に面白いです。これだけは是が非でも…

逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成〈F〉

SF

「ぼくの、マシン」に比べるとSF成分は少なめ。ストーリー重視の短編集ということらしいです。個人的には、あっさりした短編が多くて物足りなかった。 以下、ネタバレなしで解説。

ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉

SF

大森望が編集したSFアンソロジーはけっこう読んでるんですが、これはその中でも読み応えがあるほうです。SFネタとして面白いってだけじゃなく、短編としても良いなあっていう作品が多いんですよ。傑作を多数収録している順にランキングするなら、「超弦領域…

ディスコ探偵水曜日〈下〉 / 舞城王太郎

完全に神話だこれ。舞城王太郎は神話を創ろうとしている。単なるタイムトラベルものかと思いきや、世界の成り立ちを解き明かし、時空の認識を一変させる壮大な話だった。いや、正直すげーわ。物語としてのまとまりなら「九十九十九」のほうが上だけど、本作…

ディスコ探偵水曜日〈上〉 / 舞城王太郎

なんだこれは。過剰だ。過剰すぎる。導入部の30ページは傑作SFを予感させる出だしなのに、そこから清涼院流水「コズミック」のような、バカミスが延々と続く。殺人事件に過剰な意味づけを与える名探偵が出るのはまだいいとして、なんでこんなにいっぱい出す…

アラビアの夜の種族 / 古川日出男

SF

ねっとりと絡みつくような文体で語られる冒険小説。この文体はだいぶ好みが割れそうですね。僕も最初は受け付けなくて、半年ぐらい放置していたのですが、2巻の後半くらいから一気に面白くなってくるので読破できました。一応、剣とか魔法とか出てくるわけで…

スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選

SF

海外作家のアンソロジー。ポストヒューマンとだけ聞くと、人類が絶滅してロボットの時代になったとかそういうのを想像しがちだが、むしろ人類そのものがバイオやナノテクによって変わってしまうというもの。チャールズ・ストロス、グレッグ・イーガン、デイ…

亜玖夢博士のマインドサイエンス入門 / 橘玲

SF

前作と同様に単なる教養小説かと思ったら完全にSFだった。いや、SFとしか思えないようなことも近未来のテクノロジーなら可能ということだから一応教養小説になってはいます。しかし、軽いタッチで雑学を学ぼうというスタイルなので、説得力のある未来像を提…

NOVA 2

SF

1作目と違って、ふだんあまりSFを書かないような作家の短編が中心のSFアンソロジー。僕としては1作目のほうが好きだったけど、ジャンルSF特有のジャーゴンを多用した作品が少ないおかげでこちらのほうがとっつきやすいかもしれない。とくに津原泰水「五色の…

1984年 / ジョージ・オーウェル

素晴らしい。この小説を単なる、管理社会批判の教訓本としてとらえるのは野暮ってもんですよ。もちろん僕も自由主義者のはしくれとしては、この本をアンチ全体主義・アンチ「大きな政府」のプロパガンダとして翼賛したい気もやまやまなのです。だが、なんか…

海を見る人 / 小林泰三

SF

ファンタジー嫌いによくあるのが、あの世界には論理がない、という批判です。つまり確固とした法則がないのでご都合主義的な魔法がまかり通り、とても読めた代物ではない、というのです。しかし、完璧な論理のもとでも、奇想天外なファンタジー世界は可能だ…

旅のラゴス / 筒井康隆

ドラクエ3の職業「遊び人」はまったく使えない。戦闘中ですら遊んでやがる。しかしそんな遊び人も苦労してレベル20まで育てれば最強の職業・賢者へと転職することが可能なのだ。遊びも極めれば悟りにいたるという、わけのわからない仕様であった。しかし、本…

「涼宮ハルヒの憂鬱」好きなら読んどくべき5作

僕のような書痴がハルヒを読むと「ああ、このネタは前読んだあれにもあったな」といった既視感が際限なく襲ってきて、いざ書評するとなってもグルメ漫画に出てくる評論家みたいにうっとうしい成分分析をするだけになってしまう。しかしそんな元ネタ探しをし…

老ヴォールの惑星 / 小川一水

SF

最近太陽系外でも惑星が発見されていますが、そのほとんどは水星軌道よりも内側でしかも木星のようなガス惑星らしいです。水星ですら灼熱の星なわけで、それよりも恒星に近いところにいるわけですから摂氏1200℃とかそんな世界です。住めるかって話ですよ。こ…

啓示空間 / アレステア・レナルズ

SF

天文学博士で欧州宇宙技術センターに勤務していた著者だけにガジェットの緻密さはものすごい。しかし最新のファッションに身を包んではいるが、驚くほど古めかしい骨格をもっているSFなので昔ながらのSFファンにも安心して読める宇宙ものです。滅びた異星種…

TAP / グレッグ・イーガン

SF

究極の言語というものが、もしあるとするのならば、それはどんなものになるだろうか。それは「ことばでは言い表せない感動」とやらも、容赦なく言語化してしまうものになるだろう。人間が感じうるありとあらゆる感覚/情動、そのすべてのパターンを正確に言…

エディプスの恋人 / 筒井康隆

SF

七瀬三部作の完結編。シリーズものはたいてい前作で登場したキャラが再登場するのを楽しみにするものですが、この作品ほど前作のキャラをないがしろにしているのもめずらしい。全能の神みたいな存在がいて、その神に特別に愛されているやつがいて、主人公は…

細菌人間 / 筒井康隆

SF

ジュブナイルとしては一級品だと思いました。ふだんは皮肉たっぷりの作品や、どちらかといえば邪悪な作品を書く作家なのにどうしてこうも少年の心揺さぶる物語を書けるのか不思議です。宇宙人と戦ったりする素朴なストーリーなのでいい年こいた大人はさすが…

肉食屋敷 / 小林泰三

SF

香りたつB級ホラー臭。タイトルそのまんまの表題作はおいといて、よかったのは、西部劇のパロディの「ジャンク」という短編です。この世界ではサイボーグ化したごろつきどもが抗争しているのですが、サイボーグといってもメカメカしい金属のパーツではなく、…

かめくん / 北野勇作

SF

幸いなことにというか、炯眼恐れ入りましたというか、私が「この作品が推されたら機関銃を乱射して選考委員と編集者を皆殺しにして逃走しよう」と考えていた作品に対して、選考委員の全員が「この作品だけは推されないようにと」「この作品を推す人がいたら…

NOVA 1

SF

奇抜な話が読みたかったら、SFのアンソロジーを読むのが一番いいと思う。最初から変な作家の作品を読むのも手だけど、こういうアンソロジーには思わぬ伏兵がまぎれこんでいるので油断できないのですよ。とくによかったのは、「世界を確定させる能力者 VS 不…