帝王の殻 / 神林長平

神林長平「あなたの魂に安らぎあれ」の続編。突然ですが、忙しい時に自分を分割したくなりませんか? おれAにレポートを書かせ、おれBにゲームをやらせる、とかできたらいいですよね。しかし、どっちがゲームをやるかで揉めそうですね。どっちも自分こそは自分の主権者であるのだからと譲らないかもしれません。結局、厄介ごとが増えるだけな気もします。さて、本書はPABという人口副脳がある世界の物語です。PABはもう一人の自分として生活をサポートしてくれます。なんてったて自分ですから、相談相手として最適かもしれません。しかし、まあSFのお約束で、こういう人間生活に深く関わるテクノロジーは必ず暴走します。そして機械VS人間の戦いへ。……という話かと思ったらそうでもなかった。
PABは精神のコピーですが、丸写しではありません。生まれたときにPABを与えられた人間は、PABと対話することでPABを成長させます。つまり言語を通じてコピーしているわけです。だから本とかブログの進化形態と捉えたほうがいいかもしれません。優れた本や著者の死後も残るように、また優れたブログが本人の死後もなおアクセス数を伸ばすように、PABは本人の死後もなお残り、人々に死者の言葉を語ります。自らの思いを語るだけでなく、質問にも答えられます。電子的なイタコみたいなもんですね。しかも書籍と違ってPABに優劣はありません。すべての人のPABが保管されます。どんな人の人生にもそれなりに意味があるように、どんなPABにもそれなりの価値はあるのです。
……というテーマで突っ走るのかと思ったらそうでもなかった。最終的な着地点がなんでこうなのかイマイチ納得がいかないのですが中盤の盛り上がりはなかなかだと言っておきましょう。