我語りて世界あり / 神林長平

共感能力が極限まで高まり自己と他者の境界が消えた世界。3人の人間と謎の知性「わたし」の自分探しが始まる! 伊藤計劃「ハーモニー」とテーマ的に近いかもしれない。アイディア的に面白いんですが、世界設定があいまいでよくわからん話になっています。ルールをよく知らないゲームをやっているときに「あれ? ここでこうできるのか」といちいち戸惑ってしまうあの感じ。もう少しルールを明確にして、その上でルールの抜け穴をついたりルールをちゃぶ台返しすると面白いのに。

内容ですが、「ハーモニー」が幸せなら自我とかいらないじゃんと突き抜けてたのにたいし、本書ではそうした自分のない世界をディストピアとして描いています。個性のない固体がいくら幸せでも、その幸せは自分のものとすることができない。社会の付属品のようなその生は、半ば死んでいるようなものだ、とまあ強烈にdisってます。
ではなぜそうした自分が必要なのでしょうか。なぜ幸せな社会を放棄してまで自分というものにこだわる必要があるのでしょうか。それは「我語りて世界あり」というタイトルからわかります。世界は語られるものとしてあるので、誰かに語ってもらわないと無いも同然だというのです。つまり我が必要なのです。しかし「我語らずとも世界あり」という機械論的な世界観を持っている人には納得できないでしょう。私もちょっとぴんときませんでした。