超弦領域

うわあ。なんだこの愛すべきバカSFたちは。これほど読んでいてニヤニヤ笑いが止まらなかった作品は久しぶりだ。現代SFの最先端と呼ぶにはちょっとSFなのかよくわからない枠が多い気もするけど、まあよろしい。以下できるだけネタバレせずに寸評(ネタバレ部分は反転しないと見えないようにしました)。


法月綸太郎「ノックス・マシン」

文学を数理的に解析できたら人工的に物語を生成できるんじゃね? というネタがことのほか面白い。それ以降の展開はまあギャグみたいなもの。テンポのよいエンタメ。

林巧「エイミーの敗北」

よくわからなかったけどこの妖怪の話なのか。しかしそもそもが正体不明の妖怪だから、固有の設定もほぼないわけで、それが本編の設定とどう絡んでくるかわからんなあ。

樺山三英「ONE PIECES」

著者の問題意識がよくわからない。話としてもちょっと冗長かな。

小林泰三「時空争奪」

やっぱりやすみんは短編がうまい。このアンソロジーで一番面白いな。

津原泰水「土の枕」

文体の技術すごいね。引き込まれる。

藤野可織胡蝶蘭

ちょっとしたホラー。

岸本佐知子「分数アパート」(「あかずの日記」より)

そこそこ面白いなんちゃってマジックリアリズム日記。

石川美南「眠り課」

短歌。いや、これはSFなのか? あまりいい出来とも思えない。どうせなら星野しづるの犬猿短歌に登場してもらって、ついにAIが文学界に参入! とかやったらいいのに。あの常軌を逸したおもしろ短歌はくせになる。気に入っているのはこれ。

流氷のかかとの中に真っ暗なかすかなねじを浴びながらねじ (星野しずる)
虚無僧のごとく涙を追いかけて機械じかけの朝の虚無僧 (星野しずる)
ライオンの模型を語るあの夏のけだるい街からあふれ出す耳 (星野しずる)
水色の卒塔婆に託す貧血のかかとの夢の底ではらせん (星野しずる)

最相葉月「幻の絵の先生」

ノンフィクションにはあんまり興味がわかないなあ。

Boichi「全てはマグロのためだった」

笑った。

倉田英之「アキバ忍法帖」(イラスト・内藤泰弘

2ちゃんのまとめサイトに掲載されそうな改変ネタ。面白いんだけど言葉のチョイスに若干の寒さを感じる。敵の紹介シーンは笑える。

堀晃「笑う闇」

笑いがテーマの珍しいSF。この作品集の中でもネタの奇抜さはピカイチ。しかもちゃんとした形になっているところがまた凄い。

小川一水「青い星まで飛んでいけ」

クラークのパロディ。超知性体なのにアホの子に見えるというのは小林泰三「AΩ」にも通じるところがある。

円城塔「ムーンシャイン」

これまた難解な数学SF。モンスター群という数学的にすごい複雑なものがあるということはわかるんだけど、それと物語がどう関連しているのかいまいちわからんな。たとえば、数字を見て景色が見える人は実際にいるらしい。また景色を見てそれが数字に見えるという能力もあるだろう。では「数字が景色に変換されて見える能力」と「景色が数字に変換されて見える能力」を兼ねそろえている人がいたらどうなるの? というのがアイディアの骨子だということはわかる。そしてそれが、数字→景色→数字→景色→ といった具合に無限の変換を重ねて、認識した世界をわけのわからないところまで変換してしまう、というところもわかる。わからないのは、その無限の変換の過程がなぜモンスター群でいったん落ち着いたのかという点で、そこから一歩先へ踏み出すという結末も変換の過程は留まることを知らないのだから当然ではないかと思ってしまう。グレッグ・イーガン「ルミナス」は数学と物理的世界が1対1で対応しているかと思ったら、数学のほうですったもんだがあって物理的世界もどっちつかずになって困るという話だった。とすると本書は、数学と物理的世界は1対1でとりあえず対応していて、今住んでいる物理的世界と結びつかない数学には干渉が困難だから安心しろ、中にはあっち側に行っちゃう変なヤツもいるがな! ということなんだろうか。さっぱりわからん。

伊藤計劃From the Nothing, With Love.」

自意識とか自我とかいったあやふやなものについて鋭くつっこむ作品。同じ著者の「ハーモニー」のほうがより発展的で面白い。