SF

天獄と地国 / 小林泰三

SF

引力が逆さまの世界。気を抜くと足元の宇宙に放り投げだされる過酷な世界で、人々は天井の地面にぶら下がって生きていた。いや、天井という言葉はこの世界には無いかもしれない。だって天というのは下に広がる水も空気もない漆黒の宇宙を指す言葉なのだから…

円城党宣言――円城塔「道化師の蝶」

話をしよう。あれは今から36万……いや、3年前だったか……まぁいい。私にとってはつい昨日の出来事だが、君たちにとっては多分、明日の出来事だ。円城塔の講演を聞くという僥倖に、私はめぐり合っていた。お題はたしか、これから作家を目指す君たちへ、みたいな…

マインド・イーター[完全版] / 水見稜

SF

人間の精神だけを破壊する謎の現象マインド・イーターをめぐる連作短編集。思弁的な内容なので神林長平「言壺」とかが好きなら確実にハマる。そして文体も丁寧に織り込まれた刺繍のようで、じっくりと味わえる。「象られた力」で、かたちSFという謎の新ジャ…

デス博士の島その他の物語 / ジーン・ウルフ

SF

技巧に富んだ幻想小説。連作短編集で、さまざまな作品が収録されている。たとえば二人称小説だったり、物語の語り手が作品世界内で脇役であったり、島というモチーフが繰り返され色々な利用のされ方をしていたりする。変わった小説だなとは思ったが、そこま…

究極の経済学小説――グレッグ・イーガン「しあわせの理由」

経済学では、財は、その使用によってなんらかの効用 utilityを得るための手段です。ここでいう効用とは、快楽であり、幸福であり、欲望の満足です。経済学は財の効率的な分配を研究していますが、それは結局のところ、僕たちが効用を効率的に得るための道具…

至高の恋愛ファイナンス小説――グレッグ・イーガン「ひとりっ子」

たとえば、(1)確実に50円もらえる取引、(2)50%の確率で100円もらえるが50%の確率で何ももらえない取引を考えてみます。期待値はどちらも50円で同じですが、多くの人が(1)の取引を選ぶでしょう。僕たちは、不確実なものが嫌いなのです。このことを経…

これはペンです / 円城塔

不滅の小説。 中編2編が収録されており、表題作はものを書くとは何かという話で、「良い夜を持っている」の方はものを読むとは何かという話です。そしてどちらも、不滅という珍しいテーマを扱っています。僕は「良い夜を持っている」の方が圧倒的に好きで、…

マイ国家 / 星新一

SF

「主権者とは、例外状況にかんして決定をくだす者をいう」(シュミット「政治神学」)。だとすれば、勝手に自分で例外的状況を定義し、何らかの決定を下し、俺こそが主権者であると宣言した者が出たらどうなるのだろう。たとえば、自宅を領土とし、自分ひと…

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 / 村上龍

危機感を持て、と偉い人はよく口にしますが、そんなことを百万回言われても危機感を持つことはできないでしょう。なぜなら、危機感は人に言われて気づくものではなく、自覚するものだからです。そしてただ単に危機感を持つだけではダメです。その危機感をエ…

脳髄工場 / 小林泰三

SF

良質なホラー短編集。現代科学の粋を結集して理解不能の謎現象に挑む「C市」がとくに面白い。クトゥルフものでは指折りの名作。脳髄に精神安定化マシンをぶっさすという「脳髄工場」はややオチに無理がある気はするものの、グロテスクなテクノロジーの描写が…

革命のふたつの夜 / 筒井康隆

SF

筒井康隆の初期短編集。 この作者随一のホラー「母子像」、同人誌をめぐる醜い権力闘争を書く「となり組文芸」、手コキするだけの話なのに語り口の面白さだけで一級の作品になった「泣き語り性教育」などが読みどころ。

イリヤ・ムウロメツ / 筒井康隆

SF

筒井康隆の童話。イラストは手塚治虫という豪華すぎる布陣。英雄の生き様を書いたストーリー。 ただ内容はあんまり面白くなかったのが残念です。どうせなら「旅のラゴス」を手塚治虫のイラストでやってほしかった。漫画化でもいいけど。きっと世紀の名作にな…

驚愕の曠野 / 筒井康隆

SF

筒井康隆のファンタジー。地獄のような世界で必死に生き延びようとしたり、そんな努力もむなしく不条理に死んだりする話。 ダークファンタジーというジャンルに位置づけていいのかわからないんだけど、とにかくそんな感じです。雰囲気小説といってしまえばそ…

サイファイ・ムーン / 梅原克文

SF

梅原君、どこ行ってもうたんや……。 22年前にデビューした梅原君は、全然仕事しません。履歴書には、SF作家には勿体ないような大志が書かれていたので採用されましたが、ふたを開けてみたら、「サイファイ・ムーン」を上梓したらいつまでたっても職場に戻って…

おれに関する噂 / 筒井康隆

筒井康隆の短編集では一番好き。表題作は、無名の会社員の私生活がいきなりマスメディアの報道の対象になるという、個人のブログが炎上する昨今を予言したかのような作品。なんの脈絡もなくテレビで、「今日は○○をデートに誘おうとしたが断られた」などと暴…

Rewrite

SF

――書き換えることができるだろうか。彼女の、その運命を。というキャッチコピーだったのでてっきり「Steins;Gate」みたいな話かと思いきや中二病バトルものだった。 ――書き換えることができるだろうか。僕の、その錯覚を。さて、本作で対立の軸になっている…

量子回廊

SF

先日の読書会の課題本。年間SF傑作選の中では一番つまらなかったかも。読書会では10点満点で点数をつけて2人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは八木ナガハル「無限登山」(18/20)。無限の性質をいろんな角度から見ていて面白い、との評価を受け…

魚籃観音記 / 筒井康隆

SF

筒井康隆の断筆後の短編集。ちょっと懐かしいというか原点に返ったような感じがして、嬉しかったです。 馬がどうみても人間に見えてしまうシュールなSF「馬」、ヒャッハーと雑魚がバイクで疾走してそうな荒廃した世界で繰り広げられるモンスターと人の戦い「…

愛のひだりがわ / 筒井康隆

SF

小学生ぐらいの子どもに読ませたいジュブナイルNO.1。タイトルも好きです。概念としての愛のひだりがわなんて観念できるのか、という実験小説と見せかけて、普通に主人公の月岡愛のひだりがわ、というだけだったり、とか。

ダーク・タワー1 ガンスリンガー / スティーヴン・キング

SF

キングが30年かけて仕上げた大作シリーズの第1作目。 正直言ってキングとは合わないかな、と思った。これをオススメしてくれた友人の一番好きな作家が宮部みゆきだったので、なんか嫌な予感がしたのですが、やはりこうなってしまいました。ウェスタン風ハー…

11 eleven / 津原泰水

文体にどれほどのコストが注ぎ込まれているのか、想像だにできない作家がいる。 津原泰水だ。短編ごとにそれぞれ異なる文体を使い分け、しかもそのそれぞれが研ぎ澄まされている。女性のような美学を感じさせるが、男性作家らしい。前に読んだ「綺譚集」より…

大きな物語の不可能性――グレッグ・イーガン「万物理論」がすごい2

〈第5回誰得賞〉受賞作の「万物理論」について解説します。前回の解説では人為的なイデオロギーによる、大きな物語の維持が不可能になっている現状を指摘しました。それに対するイーガンの解は「たとえイデオロギーにおいて僕たちが無数に分断されていても、…

人類は衰退しました 6 / 田中ロミオ

このシリーズはわりと好きなんですが今回はやっつけ仕事と言わざるをえません。鳥人間コンテストとBL同人誌をパロディにしているんですが、なにか散漫な印象を受ける。

プランク・ダイヴ / グレッグ・イーガン

イーガンの新作。今回は科学的なディティールがやたら細かいものが多いので初心者にはつらいかもしれない。どれもこれも高水準だけど、とくにすごかったのは「暗黒整数」。数学的な真理はイデアのように存在しているのではなく、物理的なプロセスとして暫定…

NOVA 5

SF

先日の読書会の課題本。今回はまあまあ。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは伊坂幸太郎「密使」(33/40)。SFというよりも伊坂幸太郎、だが面白い、との評価を受けました。第4回〈誰得賞〉を授与します。 ち…

十二支SFを考えてみる

SFに出てくる動物といえば猫のイメージがある。ハインライン「夏への扉」の影響だろうか。だが世に動物萌えの種は尽きまじ。猫SF以外にも様々な動物が取り上げた作品があるはずだ。というわけで十二支SFを考えてみる。

イリーガル・エイリアン / ロバート・J・ソウヤー

ソウヤーの最高傑作。 ファースト・コンタクトもの。エイリアンの滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見され、容疑者としてエイリアンが逮捕されてしまう。相手がエイリアン? 知るか! 裁判だ裁判!……というストーリー。さすがのコモン・ローもこれには苦…

自然現象としての言語・自然現象としての物書き――円城塔「Boy’s Surface」がすごい

先の芥川賞でこれを評価するのしないので意見が真っ二つに割れたのは、円城塔「これはペンです」でした。 文壇はいまや円城党と反円城党の二大政党制に移行しているといっても過言ではないでしょう。*1 なぜ円城塔はそこまで受け入れがたいのでしょうか。あ…

虚数 / スタニスワフ・レム

架空の書物の序文ばかりを集めた作品。しかもその架空の書物は、将来刊行されるであろうとレムが予想するもので、つまりこの作品は序文という形を取った壮大な未来予測でもあります。色々な作品が紹介されているのですが、共通しているのは「自然現象として…

結晶銀河

SF

最近の国産SFはすごい。そう思わせるアンソロジー。読書会の課題本にしました。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは長谷敏司「allo, toi, toi」(38/40)。満点をつけた人が2人もいました。児童性的虐待者のお…