11 eleven / 津原泰水

文体にどれほどのコストが注ぎ込まれているのか、想像だにできない作家がいる。
津原泰水だ。短編ごとにそれぞれ異なる文体を使い分け、しかもそのそれぞれが研ぎ澄まされている。女性のような美学を感じさせるが、男性作家らしい。前に読んだ「綺譚集」よりもグロ成分は少なくなっており、一般にも受け入れやすいだろう。
以下、とくに気になった作品を挙げる。

五色の舟

べた褒めしよう。「結晶銀河」の書評を参照。

微笑面・改

空中に昔付き合ってた女の顔が浮かび、しかもそれがどんどん近付いていくというホラー。しかし主人公は変態なので、あまり動じず、むしろ至近距離にまで迫ってきたらキスでもしようか、などと考えている。異常事態に対して異常な感性でもって対応し、結末もまた尋常ではない。

テルミン

音楽療法の話。人間が快く感じる音を探し出し、それを脳内に流し続けるインプラントとか出てくるので、ここだけ見れば脳科学SF。だがこの作品は、そういった細かいガジェットよりも、次々とつながっていくイメージを大切にしている。ラストの一文がとても好み。

土の枕

領主の息子のくせに、戦争に召集された領民の代わりにわざわざ出征した主人公。本来の名を捨てて、領民の名を名乗り、戦地に赴くわけであるが、とりあえず外国を見てみたいという軽いノリで来てしまったところがあり、後悔する。帰還した後も、領主の息子としての自分は戸籍上死んだことになっており、仕方なく領民として畑を耕すことにする。そのうち第二次世界大戦が起こり、農地解放によって地主になったり、高度経済成長期に畑を手放したり、実にいろいろなことが起こる。非常に短い短編なのだが、男の人生が凝縮されており、素晴らしい余韻を残す傑作。