サイファイ・ムーン / 梅原克文

梅原君、どこ行ってもうたんや……。
22年前にデビューした梅原君は、全然仕事しません。履歴書には、SF作家には勿体ないような大志が書かれていたので採用されましたが、ふたを開けてみたら、「サイファイ・ムーン」を上梓したらいつまでたっても職場に戻ってこないし、……全く困ったもんなんです。でもね、もう50を過ぎる彼を見限ってしまったら、次に雇ってくれるところはないんじゃないかと思って、我慢しています。
そんな彼ですが、ハードSFはまるっきりだめでも、実はソフトSFを任せたらピカイチってことに最近気づきました。根気よく見てあげれば、長所が見つかるもんです。このように、うち(SF業界)はまともな作家の集まりではありません。取引先の社長から、「この子、角川さんところで世話したってくれへんやろか」と頼まれて仕方なく採用したり、公募で採用しても梅原君のような人しかきません。それでも、それぞれの長所をうまく活かしてやれば、直木賞作家にだって負けないすごいもんが作れたりします。今後も、すごい人は望んでいません。梅原君よりも多作ならば、御の字です。でも、期待はしています。あなたに、うちの業界の将来がかかっているんですから。