ちなみに最低点を獲得したのは最果タヒ「スパークした」(3/20)。低評価の理由は、読むのがひたすらつらかった、などでした。これには第6回〈マジで誰が得するんだよこれ賞〉を授与します。以下ネタバレありで解説。
上田早夕里「夢見る葦笛」 8点
完璧に平和な存在に人類が生まれ変わるとしても、それが人間的でないという理由で否定される話。この話では、人間性という言葉が、ポジティヴな意味ではなく、暴力性とほとんど同じ意味で使われているのが面白い。完璧に平和な存在を暴力的に殺しまわる主人公は、本当に人間的な存在で共感できた。そして共感できてしまう自分が恐ろしくもなる、というオチ。
高野史緒「ひな菊」 4点
あっちへふらふらこっちへふらふらと逃げ惑っているのが人間だが、それは遺伝子レベルの適応においても同じではないか、というメッセージ。全体的に質の高さは感じるのだが、いまいち心に届かなかった。
小池昌代「箱」 3点
その箱の中に文章を入れると、名文になる、という設定。しかしこの設定があまり生きていない。何重にも箱を経由したはずの文章は、より名文になってしかるべきなのに、とくにそうでもない。文体がどんどん変化していき、世界が多層に折りたたまれていく点は面白い。
最果タヒ「スパークした」 1点
宇宙が二人称で「あなた」に語りかけている、のだろう。よくわからない。短い詩なら感慨深いかもしれない文体も、そこそこのボリュームを持つ短編においては、読むのがつらい。
市川春子「日下兄妹」 6点
ちょっと説明しすぎな感もあるが良作。身体が展開するシーンはよかった。
北野勇作「はじめての駅で 観覧車」 4点
「はじめての駅で」のほうが面白い。はじめて降りた駅と見せかけて、原初の始まりの駅、という出オチ。
綾辻行人「心の闇」 3点
出オチ。
倉田タカシ「紙片50」 5点
ツイッター小説。面白いのもそこそこある。
木下古栗「ラビアコントロール」 4点
いきなり陰毛が身体中にまきつき身動きができなくなるという話。笑えたけど意味は分からない。
八木ナガハル「無限登山」 9点
頂上に登れば登るほど時間の進み方が遅くなるというのが面白い。地球の自転のため、頂上に近い部分は相当の速度を出さなければいけず、ほとんど光速に近くなる(そうでないと24時間以内に長大な円周を一周できない)。そうすると相対性理論により時間の進み方が遅くなる。まるで雑誌ニュートンの記事みたいなマンガ。
新城カズマ「雨ふりマージ」 8点
著作物であり、かつ人格もある、そうした存在が法的に認められるという話。自然人、法人に次ぐ第三の法的主体・架空人のアイデアは抜群に面白く、このアンソロジーで一番のネタではあった。ただオチが弱い。
瀬名秀明「For a breath I tarry」 4点
まるで世界の全てを背負っているような悲壮感を感じさせる主人公の態度がひたすらうっとうしい。しかし、ここではあえて好意的に評価してみよう。ロボットと人間の違いを学習機能に見て、人間でも極端な状況では適切な判断を下せない以上、フレーム問題に苦しむロボットと似たような存在だと喝破する。だから人間はほとんどロボットだ。だけど人間は生命でもある。思考錯誤を繰り返しながら環境に適応し、適切な対処を選ぶことができる。このような学習機能こそ、ほとんどロボットでもある人間が、やはり生命でもある理由でもあるのだ。しかしやってることはターミネーター。おい、こんな大層なモチーフ使う必要あるのか。
円城塔「バナナ剥きには最適の日々」 5点
瀬名秀明の作品とは対照的に、世界を背負っているにも関わらず気の抜けた人工知能の話。異星人を探すために宇宙空間に放り出されてはや1000年、なんの痕跡もなく、ただひたすら淡々とした宇宙を行く人工知能はなかば狂いかけている。とくに面白くはないが、新鮮な驚きがあるのでアンソロジーに入っていると嬉しくなる、そんな作家。
谷甲州「星魂転生」 5点
潜水艦バトルみたいだな、と思った。あれの宇宙版。
松崎有理「あがり」 4点
利己的遺伝子は、他の利己的遺伝子が大差で勝っていると自分たちの敗北を潔く認めてそれ以上増殖しなくなるのだ。ってマジか。どうやって感覚器官もない遺伝子がそのことを把握するのか。ネタとしては面白いが、あくまでもネタである。