ちなみに最低点を獲得したのは瀬名秀明「不死の市」(10/40)。文体が好みとの意見もありましたが、逆に文章下手すぎワロタ、との評価も多かったです。これには第7回〈マジで誰が得するんだよこれ賞〉を授与します。以下ネタバレありで解説。
冲方丁「神星伝」 8点
「ファイブスター物語」のような巨大ロボ戦闘ものなんですが、造語が異常に多くて、海外作家が書いたサイバーパンク(ただし日本が舞台でニンジャが出てくる)みたいな感じです。勢いだけは随一で、楽しい。僕は知らなかったのですが、「ニンジャスレイヤー」のオマージュという意見もありました。で、この「ニンジャスレイヤー」、検索して見たらすごい面白そう……。
吉川良太郎「黒猫ラ・モールの歴史観と意見」 7点
夏目漱石の「吾輩は猫である」は、猫がしゃべっているのがおかしい、と常々思っていたのです。猫がしゃべる必然性がない、と。でもこの小説は、猫を語り手にするための背景がちゃんと用意されています。漱石を超えた。相変わらず、猫がしゃべる必然性はないけど。猫が人類の終焉をながめる、というそのイメージが、それだけがよかった、という意見もありました。
上田早夕里「楽園(パラディスス)」 5点
脳内の神経細胞のネットワークがヒトという意識を生んだように、ヒト間ネットワークにもなんらかの意識が生まれるのでは、という話。設定は非常に面白いのだけど、いろいろなネタをぶちこんでいるせいで、どうにも散漫な印象をぬぐえない。また、ヒト間ネットワークも、その存在を示唆されているだけで、絵的にはなにも出てこない。たとえば、神経細胞のネットワークであるはずの人間がタバコを吸って、神経細胞を殺しているように、ヒト間ネットワークがヒトを死に至らしめるような暴挙に出る、みたいな話だったら面白かったかも。まあ、それはゲームでいうと「最果てのイマ」だったり「メタルギアソリッド4」だったりするのですが。
今野敏「チャンナン」 6点
空手の蘊蓄が面白かったです。それだけ。空手に興味が無いと、すごいどうでもいい! もう小説になってない! という意見もありました。
山田正紀「別の世界は可能かもしれない」 3点
よくわからなかった。要するにドーキンスの「人間は遺伝子に操作されるだけの存在だったんだよ! ナ、ナンダッテー」に対する反論なのだろう。遺伝子形が表現形(つまり、人間)を操るのなら、逆に表現形だって遺伝子形を都合よく選別しちゃうよ、と。何を言っているかわからないと思いますが、僕もわかりません。ネズミの群れの描写とかがわくわくさせる、という意見もありました。
小林泰三「草食の楽園」 6点
共産主義のユートピアをいったんは実現できたものの、それがささいな理由から崩壊するという話。絶対、本気出して書いてないことがバレバレなんですが、著者のファンなので楽しんでしまった。くやしい……でも面白い……ビクンビクン
瀬名秀明「不死の市」 1点
バイオテクノロジーが発達しているのに、その他の部分は中世みたいな世界観。主人公たちはクローンっぽいのですが、なぜそんなクローンが生み出されたのかはよくわからない。また登場人物の行動原理もわからない。わからないことが多すぎてやばい。0点をつけた人もいました。元ネタの「スカロボー・フェア」は名曲。
山本弘「リアリストたち」 7点
仮想現実の便利さを強調する話はよくありますが、この作品は「むしろ現実って、不潔で気持ち悪くね?」というところまでいきます。
新井素子「あの懐かしい蝉の声は」 4点
ネットに接続することが第六感とまで呼ばれるようなった時代の話。文体が受け付けないんですが、ネタは面白い。
堀晃「宇宙縫合」 6点
タイトルがいいですよね。2つの時空を何度もループすることによって、時空の歪みをぐるぐる巻きにして、1つのものにしてしまうイメージがよい。
宮部みゆき「さよならの儀式」 9点
このアンソロジーで一番よかった。宮部みゆきは元々好きじゃないんですが、この作品は別。伊藤計劃をちょっと意識してるな、と思いました。顧客に愛されたロボットと、そのロボットを作る労働者の話。労働者のほうは工場のなかで黙々と作業するだけなので、まるで自分を歯車のように感じています。むしろロボットのほうが自分よりも、よっぽど人間らしい扱いを受けているわけです。あー、もう人生やめてー、というか人間やめてー、と苦悩するわけですが、しかし、そうやって苦悩することができるというのも、人間の特権でありますから、話は複雑です。
夢枕獏「陰態の家」 5点
絶対てきとーに書いてる! という意見や、 絵が想像できて面白い、という意見がありました。気軽に読めるけど、まあ、そんだけ。