NOVA 5

先日の読書会の課題本。今回はまあまあ。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは伊坂幸太郎「密使」(33/40)。SFというよりも伊坂幸太郎、だが面白い、との評価を受けました。第4回〈誰得賞〉を授与します。
ちなみに最低点を獲得したのは須賀しのぶ「凍て蝶」(21/40)。低評価の理由は、とくに見るべきものがない、などでした。これには第4回〈マジで誰が得するんだよこれ賞〉を授与します。以下ネタバレありで解説。

上田早夕里「ナイト・ブルーの記録」 8点

潜水艇と人間の脳をつなげるブレイン・マシン・インターフェイスの話。まるで手足のように機械を動かし、海中を自由に探索するというだけでわくわくするのですが、さらに被験者がそうした実験を続けていくうちに、海の質感を脳内で再現するようになります。つまり五感が機械のアームにまで延長していき、イルカの鳴き声を肌で感じ取ったり、海そのものを感じ取ったりするわけです。
僕自身、こういう体験をしてみたいと思っています。先日スキューバの免許を取ったばかりなので、海の中に潜り、まるで海洋生物のように世界を知覚するというのは憧れるのです。技術的な実現可能性も高そうで、リアリティがあるのも高評価。

図子慧「愛は、こぼれるqの音色」 8点

セックスの時の快感を抽出してデジタルデータにする話。女性作家がこういうの書くと、いろいろと考えさせられて面白い。

須賀しのぶ「凍て蝶」 6点

僕はけっこう好きでしたよ。ヒロインのダメ人間描写とか。世界観がゆるゆるのファンタジーなので好みは分かれそうです。

石持浅海「三階に止まる」 5点

なぜか必ず三階に止まるエレベーターの謎を解く話。これは一見たいしたことない話なのですが、友人の読みが素晴らしかったので紹介しておきます。ネタバレあり。
「悪意が人を殺すという結論に至る必然性はない。むしろ、悪意が一人の人間に蓄積するという呪いがかかっており、その呪いゆえに三階のあの人はあんな狂気に陥ったのではないか。かの人はコミュニティが善良であるために、一手に悪意を引き受けていた犠牲者なのではないか。そう考えるならオチの部分も、勧善懲悪のスタートというよりも、むしろコミュニティが新たな生贄を選び出したという、禍々しいホラーの端緒とも読める。」

友成純一「アサムラール バリに死す」 6点

バリで女を買いあさって暮らすクズ野郎が野たれ死ぬ話。説教臭いメッセージ性がなく、端的にクズが死ぬというあたり、潔い。好感が持てます。作中作を用いたメタフィクションの構成もよい。

宮内悠介「スペース金融道」 8点

量子金融工学による多宇宙ポートフォリオが、価格の変動が光速に近づくことによる相対性理論的効果によりブラックホール解を形成するという、まったく意味が分からないんだけどカッコいい話です。いろいろなネタが詰めあわされていて、そのパッチワークが必ずしも上手いとは言えないのですが、それでも面白い。経済SFはこれから伸びてほしい分野、とのコメントもありました。

東浩紀火星のプリンセス 続」 6点

うーん。完結してからコメントしたいです。連載の初期のほうが面白かった。

伊坂幸太郎「密使」 6点

時間を6秒だけ止められる能力、という非常にしょぼい設定が、あの手この手で大きく膨らんでいくという伊坂ワールド。みみっちい小市民的な世界が、意外な奥行きを垣間見せる、という興奮があります。構成もうまい。10点をつけた人もいました。
ただ僕はあんまり好きじゃないんだよなあ。

交換会で放流されたラインナップ











トリイ・ヘイデン「よその子」円城塔「これはペンです」、泉昌之「かっこいいスキヤキ」、O・ヘンリー「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」です。
左から、@daen0_0@huyukiitoichi@utcr@j110359 からの推薦図書です。敬称略。みなさん、ありがとうございました。