ぼくの、マシン ゼロ年代日本SFベスト集成〈S〉

大森望が編集したSFアンソロジーはけっこう読んでるんですが、これはその中でも読み応えがあるほうです。SFネタとして面白いってだけじゃなく、短編としても良いなあっていう作品が多いんですよ。傑作を多数収録している順にランキングするなら、「超弦領域」6>「ぼくの、マシン」4=「虚構機関」4>「逃げゆく物語の話」3=「NOVA1」3>「NOVA2」2。
以下ネタバレなしで解説。

野尻抱介「大風呂敷と蜘蛛の糸」 5点

ロケットを使わずに風呂敷で宇宙までいく話。プロジェクトX的なディティールが見どころ。

小川一水「幸せになる箱庭」 6点

よくあるユートピアディストピアもの。面白いんだけどインパクトがそんなにないかな。「老ヴォールの惑星」収録。

上遠野浩平「鉄仮面をめぐる論議」 7点

この人の作品は初めてだけど、なんか癖になります。触れた物質をすべて結晶にしてしまい、無力化する能力者の話。誰からも触れられず、誰も触ることのできない能力者の孤独が、うざくない形でほんわりと表現されていて、これはいい!と思いました。

田中啓文「嘔吐した宇宙飛行士」 4点

タイトルそのまんまの出オチみたいな話。こういう下らない短編がベスト集成に入ってくるあたり、SFというジャンルの懐の深さを感じます。

菅浩江「五人姉妹」 4点

クローン技術を扱った話。さっぱりしてる。

上田早夕理「魚舟・獣舟」 8点

気候変動で都市が水没した未来の話。この世界で人類は遺伝子操作技術を用いて新しい生命を創りだしています。今でも家畜の品種改良とかやっているわけですが、この作品で改良の対象になっているのはヒトです。生命倫理の危ない橋を渡った先に何が待っているのか、そして自然の克服という近代以来の運動に限界はないのか、といった骨太のテーマが語られます。

桜庭一樹「A」 4点

ティプトリー「接続された女」のパロディ。あんまり面白さがわからなかった。そもそも僕は元ネタの「接続された女」自体たいした作品だと思ってないんですよ。リモートコントロールされた少女の身体ってモチーフに何かぐっと来るものがるんですかね、みんな。

飛浩隆「ラキッド・ガール」 10点

傑作。文句なしに満点。これを読まずには死ねない。ネタバレありの解説はこちら。
ちなみに続編はいつ出るんですかと聞いたら笑ってごまかされました。 飛先生ェ……。

円城塔「Yedo」 9点

笑った。喜劇を演じるのではなく、計算のプロセスそのものが喜劇であるような、そんな計算は可能か、という話。これだけ聞くと意味不明の難解SFに思われるかもしれませんが、しっかりと笑えます。「Self-Reference ENGINE」収録。

伊藤計劃新間大悟A.T.D Automatic Death■ Episode:0 NO DISTANCE,BUT INTERFACE」 5点

マンガです。情報が詰め込まれすぎてよくわからない。

神林長平「ぼくの、マシン」 5点

「戦闘妖精・雪風」のスピンオフ。この人の書く主人公はいつも異質で、ついていくのが大変なのですが、今回もそんな感じ。