SFに出てくる動物といえば猫のイメージがある。ハインライン「夏への扉」の影響だろうか。だが世に動物萌えの種は尽きまじ。猫SF以外にも様々な動物が取り上げた作品があるはずだ。というわけで十二支SFを考えてみる。
丑(ウシ):津原泰水「五色の船」(「11」収録)
牛SFはぱっと思いつかなかったので、そのかわり牛の身体と人の顔を持つとされる妖怪「くだん」を扱ったこの短編に。おそらくここで紹介した作品の中で一番文章がきれい。辰(タツ):ロバート・J・ソウヤー「さよならダイノサウルス」
「恐竜はなぜ絶滅したのか」という謎に迫るミステリ。隕石衝突説に対していろいろ反論して面白いです。コードウェイナー・スミス「竜と鼠のゲーム」と迷いましたが、こちらの竜は概念的なものなので。ファンタジーに出てくるドラゴンは唸るような設定のやつがあまりいないので落選。巳(ミ):伊藤計劃「メタルギア・ソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」
ちなみに「メタルギアソリッド3」は多種多様なヘビをゲットして「これは美味い」だの「もっと食わせろ!」だの寸評するゲームだと思っています。午(ウマ):筒井康隆「馬」(「魚籃観音記」収録)
社長から馬をもらう。しかしその馬は、自分は馬だと信じ切ってる女の子であり、扱いに困る。だが、主人公以外にはその女の子は馬として認知されており、主人公の認識だけが「馬が人間に見える」よう歪んでいるだけかもしれず、なかなかシュール。戌(イヌ):ヴァーナー・ヴィンジ「遠き神々の炎」
正直こいつを犬SFとして取り上げたかったがためにこの企画を立てた。犬型の群体精神を生き生きと描いています。人間の脳は神経ネットワークの結合ですから、脳同士のネットワーク結合でも知性が発現してもいいのでは? というアイディアが秀逸ですね。ディティールもよく練られています。
固体同士が4〜6匹集まって集合意識をもつのですが、そのコミュニケーション方法が音なので、何かを考えると <思考音>が生まれます。この思考音のせいで群れ同士が近づきすぎると、音が混ざって意識が混濁してしまうのです。
また固体のそれぞれが異なる性格を持ち、その個体の集合がひとつの人格をつくるという設定なので、固体が欠けたり増えたりすると性格が変わります。つまり精神の品種改良が可能なのです。自分に都合のいい性格の固体を残し、あとは間引きすれば物理的に精神を変えられます。競馬でいえば、馬主 兼 牧場主 兼 種牡馬 兼 繁殖牝馬みたいなもんです。