バターはどこへ溶けた? / ディーン・リップルウッド


ディーン・リップルウッド*1 の自己啓発本「チーズはどこへ消えた?」のパロディです。露骨に二匹目のドジョウを狙ってますね。ストーリーのほうもチーズ本と同じく、わかりやすい寓話となっています。「変化に対応するのもいいけど、現状を肯定して幸せになろう」と一言で要約できてしまう内容です。




案の定、チーズ本の出版社に訴えられたんですが、これをしりぞけた東京地裁の判決が面白い。ちょっと引用します。(チーズ本の出版社=債権者、バター本の出版社=債務者です。)

 債権者出版物の書名は「チーズはどこへ消えた?」であり、債務者出版物の書名は「バターはどこへ溶けた?」というものであるが、両者を比較すると共通する部分は「どこへ」と「?」のみである。「どこへ」は「どの場所に」という意味の副詞句であり、「?」は疑問詞であるから、これらは独立した意味を有しない。そうすると、意味のある部分は「チーズ」と「バター」、「消えた」と「溶けた」ということになる。
 この点について、債権者は、債権者出版物及び債務者出版物の書名は、ともに幸福、金銭など価値のあるものが失われたという内容を意味し、両者は観念において類似する旨主張する。しかし、「チーズ」と「バター」で共通するのは乳製品であるという点だけであり、語感やその意味する内容、それから連想されるものは大いに異なる。また、「消えた」と「溶けた」についても、「消えた」という表現からは物体として存在していたものがなくなったという観念が生ずるのに対し、「溶けた」という表現からは個体として存在していたものが液体になったという観念が生ずるものであり、両者の意味するところは異なる。
 さらに、本の装丁についても、債権者出版物と債務者出版物を比べると、債権者の指摘するとおり、書名や著者の表記の順序や字体において類似していることが認められるが、他方で、疎明資料によれば、表紙から裏表紙に続く絵は、チーズとバターの個数や配置、登場するキャラクターの数や配置、色調などにおいて、読者に異なる印象を与えるものであることが認められる。

チーズ本対バター本事件


どっからどうみてもパクリなんですが、重箱の隅をつつくような細かい指摘で反論しているのが笑えます。余談ですが、パロディ本のタイトルで一番笑ったのは小松左京日本沈没」にたいする筒井康隆日本以外全部沈没」ですね。これは著者同士が友人であり、なおかつ本人の許可も取ってあるから問題無いんですが。もし同じように反論するとすれば、

日本沈没」と「日本以外全部沈没」では被災範囲が大きく異なり、海中に没する国家・地域・民族・文化に著しい差異が認められる。また災害の規模についても日本列島が沈没するのと、世界的な大陸が全て沈没するのとでは、比較にならないほどの格差が存在する。ゆえに両者の類似性については、これを認めることができない。

となるんでしょうか。

*1:この本は翻訳書ではないので、どうやらこの人は日本人らしいです。なんというふざけたペンネーム。