さらにミステリのフーダニットの面白さがあります。精神を微妙に編集して異なる3つの「自分」を作り出した主人公。そのうちの誰が犯行を可能なのか? そのうちの誰に犯行の動機があるのか? その動機には魂の有無が関係あるのか? うーん。書いてるだけでワクワクします。
さらに社会派小説としての面白さもあります。魂の発見というのはキリスト教社会ではセンセーショナルです。そんな霊的なものが物質的な電気フィールドに還元できるはずがない! と怒る人もいれば、これぞまさに聖書の予言通り! と喜ぶ人もいます。科学的な事件がいかに社会に波及するかという顛末がスラップスティックに描かれていて楽しかったです。
SF好きもそうじゃない人もオススメですよ。以下ネタバレ。
ソウヤーにはラストでがっかりさせられることが多いんですが、今回もちょっとだけ文句を言います。これって手塚治虫「ブッダ」じゃん! 東洋思想とか集団意識とかが好きなんですかね欧米人は。でも自分の精神を電子コピーとして機械の中にインストールして、不死の生命を得ることもできたのに、「せっかく人間に魂があるんだから、天国がどんなものか見てみたいしね」と永遠に生きることを諦めたりするのは新鮮でした。この辺の発想はイーガンじゃ出てこないでしょう。