パンク侍、斬られて候 / 町田康

なんでこんなに面白いんだよ。こいつの書いた文章ならどんなものでもきっと面白いんだろうなと感じさせる作家が一人いて、それが筒井康隆なんだけれど、もしかしたら町田康は彼に比類しうる才能を持っているのでないか。この時代小説の皮をかぶった小説は途中から筒井康隆「歌と饒舌の戦記」のようなドタバタになるんですが、予想もつかないストーリー展開もさることながら、文体が凄まじすぎるの一言に尽きる。そしてしつこい文章なのにすらすらと読めてしまうリーダビリティの高さにも恐れ入る。
何事にも冷笑的なスタンスで有象無象が渦巻く世間を主人公が軽やかに駆け抜けていく話なのかと思いきや、そんな口先だけの人間が社会の中でいかに使えないヤツかが露呈され、それが暴露されるだけならまだしも、そのことがお偉いさんの癇に障り、実際に生命の危機すら危うくなる状況に陥り、そうなるともはやくだらない茶々を入れている暇はない、というかそんなことをしようものなら殺される、という崖っぷちに立たされるやいなや今までのすかした態度を一変させ権力者に従属する俗物根性をいかんなく発揮するシーンとかもうホントすげーわ。よくここまでありのままのストレートな感情の流れを書けるものだ。そしてそうしたストレートな感情に素直に従わず、脱線したり、茶化したり、笑いを取ったり、でもやっぱりたまには率直になって感動してみたり、そういう複雑な心が怒涛の勢いで押し寄せてきて、しかもそれらが一流のギャグセンスを伴っているものだから、ついつい徹夜で読みきってしまうのです。
「人間が書けてる」という評論が嫌いなんですが、でもそうした自覚を持ちながらもあえてこう言いたい。この作品は人間が書けてる。それも痛いぐらいに鋭くその本質をえぐっている、と。余談だけどネイティヴの人がカート・ヴォネガットを読むとき、もしかしたら同じような楽しさを感じているのかもしれない。荒唐無稽なストーリーと執拗なギャグと人間の本質((っていう言葉は曖昧すぎてなんも説明できてないとは思いますが)) への深い描写。それらが三位一体となって両立する奇跡。こういう作家がいるから読書は止められない。