限りなく透明に近いブルー / 村上龍

村上龍のデビュー作。ドラッグとセックスに明け暮れる退廃的な青春を描いたストーリーです。村上春樹「わけのわからない原理に支配されたピタゴラスイッチ」なら村上龍「半分が知らない原理に支配されたピタゴラスイッチです。ドラッグ、キューバ、風俗などを題材にした小説はよく分かりませんが、社会・政治・経済を題材にした小説はかなり共感できます。


なにより村上龍は描写に対する情熱というかこだわりが感じられて好感がもてます。執拗なまでに現実を描写しようとするそのスタイルは、重すぎて読むのが疲れるんですが、一度はまるとかなり快感。とくに「希望の国エクソダス」以降は現実をとらえるツールとして経済を用いていますが、私自身が経済学部に進もうかどうか迷ったぐらいの経済好きなので、個人的に諸手をあげて賛同したいところです。
やっぱり文学的で詩的な内情をいくらこねくり回したところで限界があると思うんですよ。感動させるため、価値ある小説を作るため、作家によって色んなツールが使われているんでしょうが、そこに経済という俗っぽいものをもってきた村上龍のセンスは凄いなあと感心します。もともとこの「限りなく透明に近いブルー」でデビューし、芥川賞受賞という高い評価を受けているので、これ系統の社会情勢とか経済理論とか全く関係ない内情吐露系の作品をずっと書いていてもいいはずです。勉強しなくていい分、こっち系の作品の方が楽に書けるでしょう。でも、そういう読んだ時は感動できるけどすぐに忘れてしまうような「物語」を量産するのではなく、様々な知識を詰め込んで読んだ人の人生を変えるような作品を創ろうと努力し、なかばそれに成功にしているのです。絶賛せずにはいられません。
―――というのが私の村上龍論です。もうお分かりでしょうが、「限りなく透明に近いブルー」は面白さが分かりませんでした。とくにオチらしいオチもなく、何を伝えたかったのかも分かりません。ただドロドロした話なのにかすかに清涼感もあるというのは、実に村上龍っぽいですね。