はじめての夜 二度目の夜 最後の夜 / 村上龍

村上龍の恋愛小説。「69」の続編で、村上龍を模した主人公が初恋の女性と23年ぶりに再会してディナーするというストーリー。昔好きだった人がふくよかなおばさんになっていたり、いいおっさんになっていたりするのは幻滅ですが、よくよく考えると自分だってそういうおっさんでありおばさんだったりするので、人のこと笑えません。この苦い感じがよく伝わってくる小説です。
たとえば主人公の初恋の女の子は今では平凡な主婦になっているわけです。だから精一杯おしゃれしても、そこには地方都市在住の中年女性が決して乗り越えることができない壁があるのです。そんな醒めた視点を持っていたら素直に恋愛を楽しめないと思うんですが、そういったビターな要素をふまえつつも最後はしっかりと夢を持たせて終わるところは素晴らしい。着地点が渋すぎる。
ロマンスの神様に「もうそのおっさんで妥協したら? 夢見すぎだろJK……」と言われて怒り狂う子供っぽい感性ではなく、その妥協の中にも夢や楽しみを見出せる大人のロマンスがここにあります。