ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 / 村上龍

女子高生が援助交際を決意する話。その動機というのが12万8千円のインペリアル・トパーズを渋谷で見つけて、どうしてもそれが欲しくなってしまったというものです。欲しすぎてヤバイということではなく、それを今手に入れないと明日にはもう欲しくなくなってしまうかもしれない、今ここにある欲望が消えうせてしまうかもしれない、そういう不安が女子高生を援助交際に駆り立てるということらしいです。まあ、わからんでもないんですが、なんだかバブルな香りがするなあ。当時の空気だとわりとよくある話なんだろうか。消費への欲望がこれほど大きく、物語のエンジンとして機能するほどに強靭なことに違和感をもちました。
とはいえ、不景気で消費マインドが低迷しているからそう思うだけなのかもしれませんし、市場経済という欲望の体系が「たかが消費ごときでは満足できない」とばかりに《消費の価値》を消費しつくしてしまったのかもしれません。あるいはそんなたいそうな話ではなく、自分探しで精神的な充足感を得るというここ最近の流行とズレていて古さを感じるだけなのかもしれません。
あと村上龍の主人公は良くも悪くも自己満足至上主義なところがあり、この小説の主人公もとにかく自分にとっての欲望が第一にあるって感じで、他者性というか社会性を感じさせないんですよね。自分のこだわりさえ満足できれば問題ないというような職人気質というか、孤高なところがあります。なぜ山に登るのかと聞かれて「そこに山があるから」と答える登山家のような一途さがあるのです。これがどうしても若い層のイメージとズレる。
自己満足としての消費ではなく、他者から価値ある存在と認定されたいがための消費のほうが自然な気がします。例えば、消費することそれ自体に価値を見出すんじゃなく、おしゃれなアイテムを身に着けてるわたしってカワイイみたいな、ステータスへの憧れとか。
というか若い女性作家ならまだしも、村上龍みたいなおじさんが女子高生を描くということにはやっぱ限界があるんじゃないだろうか。だって結論が「見知らぬ男に身体を売るのは危険だ。中には変なヤツもいる」というごくありきたりなものなんですよ。たしかにもっともな説教ですが、そういう社会的な一般論じゃない方向に持ってくのがいつもの村上龍なのに。というわけで村田沙耶香「マウス」とかのほうがいいですよ。