さて、この「巨船ベラス・レトラス」ですが小説が題材の小説という、メタフィクションです。文壇や出版業界に興味ある人にとっては面白いでしょう。筒井作品としては可もなく不可もなく、といったところ。現代版「大いなる助走」といった感じもしなくは無いです。しかし表紙のセンスが(悪い意味で)昭和なのはどういうことだ。まだ「大いなる助走」の方がセンスあるのに。
作中では小説に関わる様々な問題提起があったのですが、印象に残っているのは
ありとあらゆることが映像化できる今、文章そのものの面白さだけが映像化できない
というような箇所。要するに文体の面白さや「残像に口紅を」みたいに文章そのものを遊ぶ実験を、小説は追求すべきだという事なんだろうか。しかし、なんでも映像化できるとは言うが商業的にこけた時のダメージが小説のそれとは比べ物にならない映像産業じゃあ、「虚航船団」みたいなものは通らず、わかりやすいヒューマンドラマだけが持て囃されそう。コストがかからない分、作家の自由がある程度許容された小説というメディアは有用だ。たとえそれが全部映像化できるような作品でもアリだとは思うけどねー。